「ビットコインは水を大量消費している」というデマはなぜ拡散しているのか?
科学雑誌に掲載された「ビットコインが水を大量消費し、環境を破壊している」ことを詳述したとされる論評をめぐる騒ぎを聞いたことがあるかもしれない。この論評は、事実としても、データ的にも不正確であるにもかかわらず、メインストリームメディアによって取り上げられ、拡散された。 この騒ぎを聞いて、「またか」と呆れる人もいるだろう。何年もの間、我々はビットコインの電力消費についての誤った主張を論破するために努力しなければならなかった。そうした間違った言説には、ビットコインマイニングは世界中の電力を使い果たすという常軌を逸した主張から、ビットコイン取引とは何かに関する、無理もないとはいえ、怠惰な混乱まで、さまざまなものがあった。 我々はそのような論争に概ね勝利した。環境に与える影響を理由にビットコインマイニングを禁止すべきと主張する規制当局関係者は、最近ではほとんど見かけなくなった。その代わりに、全面的な拒絶の主な理由として、違法行為での使用を挙げることに軸足が移っている。 まるでメインストリームメディアが、自らの批判的で見下した態度を正当化するために、別の機会を探していたかのようだ。このような必死な人々に対して、リサーチ企業Digiconomistの創設者でデータサイエンティストのアレックス・デ・フリース(Alex de Vries)氏は「Bitcoin’s growing water footprint(ビットコインの水使用量の増大)」と題する論評を発表した。
陰謀論ではない
ビットコインマイニングが環境保護に役立つ可能性もあるという認識の世界的な広まりを逆行させることが目的だったとすれば、賢いアイデアだ。 気候変動に関する恐怖を煽ることは、以前から読者を煽ってPVを稼ぐ人たちの常套手段であり、ちょうどCOP28が開催されていたことを考えるとタイムリーだった。生存を脅かすような破滅シナリオと、誰もコントロールできそうにない恐ろしい新しい金融システムを組み合わせれば、メインストリームメディアはもちろん大喜びで飛びつくだろう。 さらに、この新たな視点は特にタイミング的に興味深いものだった。水問題は、私が毎日目を通すメディアの常連テーマとなっている。例えば先日、経済学者のマリアナ・マズカート(Mariana Mazzucato)氏らがProject Syndicateに「Water and the High Price of Bad Economics(水と不経済の高い代償)」という記事を発表した。 12月1日には国連が、予想通り身も凍るようなデータを掲載した「Global Dwought Snapshot(世界干ばつ統計)」を発表。その前日には、ブルームバーグがアマゾンの干ばつを報じ、前週にはエコノミストがパナマの干ばつを取り上げた。もっと例を挙げることもできるが、もう十分だろう。 おそらく水問題の場合、その希少性が言外に示唆されるという点で、さらに巧妙だろう。「電力消費が多すぎる」という議論は、哲学的に反論することが簡単だった。結局のところ、(2つの例を挙げれば)地中から電力を取り出すか、太陽の光をうまく利用するかによって、より多くのエネルギーを作ることができる。 電力はゼロサムゲームではない。水は今のところ、そうだ。もし本当にビットコインが「過剰」に水を消費しているとしたら、喉が渇いた市民や農業のための水が減ることになる。水不足は電力不足よりも致命的に感じられる。 そして私たちは皆、気候破壊というホットな話題が、まさにビットコインから最も恩恵を受ける可能性のある人々を疎外するために効果的に利用されることを目にしてきた。それはつまり、高齢の世代とは違って、現行システムを信頼することに固執しておらず、来るべき通貨価値の下落の中でどうやって貯蓄するかを真剣に考えるべき若い世代だ。 デ・フリース氏が暗号資産エコシステムの信用を失墜させようとする組織的な努力の一端を担っていると言っているわけではない。とりわけ、暗号資産エコシステムが環境に貢献する可能性に対する公式の認識が固まりつつあり、伝統的な金融機関がより幅広いビットコイン商品を提供し始めたこの時期に。私はそんなことはしない。私は陰謀論者ではない。 しかし、このタイミングが好都合であることは認めざるを得ないし、メインストリームメディアが、ジャーナリストたちが普段、朝に読んでいるメディアには載っていないような無名の科学雑誌に掲載された論評をこれほど早く取り上げたことは驚くべきことだ。そういえば、アレックス・デ・フリース氏はオランダの中央銀行に勤めていることには言及しただろうか?