政府支援の光と影「半導体人材」が増えぬ深刻事情、東大・竹内氏「AI半導体で日本に勝ち筋はある」
国策として怒涛の勢いで進められている、半導体産業への支援。経済産業省は2年度続けて1兆~2兆円規模の予算を計上し、台湾の半導体製造受託大手TSMCの熊本工場や国策半導体企業ラピダスへの巨額支援を相次いで決めている。 一方で、支援について「今後は何を作るか、回路設計が重要になる」と指摘するのは、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の竹内健教授だ。同氏は東芝で回路設計エンジニアとしてNANDフラッシュメモリーの開発に携わってきた。半導体生産を軸とする政府支援を、どう見ているのか。 【写真】日本も「AI半導体で勝ち筋はある」と語る東大の竹内教授
■モノだけでなく、人材への投資も重要 ――国の半導体政策をどう評価していますか。 TSMCやラピダスなど半導体の製造・開発に関する助成・支援は、日本が強みを持つ素材産業や製造装置メーカーには追い風だ。次は「何を作るか」という回路設計への支援に力を入れる必要がある。 AIを実行するコンピューター・半導体の研究開発には、製造よりははるかに少ない投資でよい。製造工場などモノへの投資だけでなく、回路設計者という人材への投資も重要になる。
――何を作るのか、というのは重要なポイントのはずです。なぜ設計分野の重要性が理解されづらいのでしょうか。 大きな理由としては、産業界の受け皿が減ってしまった。日本の半導体メーカーの多くが負けてしまったことが影響している。30年前には世界の半導体メーカーの売上高ランキング上位の多くを日本企業が占めていたが、今ではトップ10に入っていない。 政府予算は合理的に判断が行われ、収益が上がる分野に投資される。「日本は半導体には長年投資してきたのに、産業は振るわない」「事業化の出口が不透明では、大学への研究開発投資も難しい」と言われてしまったら、私のように以前から半導体に携わってきた人間は返す言葉もない。
その一方、伝統的な電機メーカーとは一線を画して、異業種やスタートアップが半導体の回路設計に乗り出しているのは明るい兆しだ。AIスタートアップのプリファードネットワークスが、プロセッサーを自ら開発していることは有名だし、自動運転など特定サービスを狙うスタートアップが半導体チップの設計まで手がけだしている。 これはGAFAMが半導体を手がけている動きと似ている。AIのアルゴリズムからソフトウェア、半導体の回路設計まで、もう一度作り直す。複数の技術を融合し、コンピューター全体を最適化する時代が来ている。