ウクライナ「平和サミット」が茶番劇である理由
ゼレンスキー大統領の正統性への疑問
ウクライナ戦争を停止し、和平を実現するためには、中国が主張するように、ウクライナとロシアの双方が参加して協議するというのが筋だろう。しかし、ゼレンスキー大統領のねらいが自らの大統領としての合法性を誇示するだけであれば、平和サミットに参加する意味はないと考えるのは当然だろう。 たしかに、ゼレンスキー大統領の合法性は大いに疑問がある。拙稿「あれっ、ゼレンスキー大統領の任期が5月20日に切れていた!」に書いたように、民主主義国家というのであれば、ゼレンスキーが戒厳令を理由にいつまでも大統領で居座りつづけるのはおかしい。 5月24日、ウラジーミル・プーチン大統領は、ベラルーシ訪問中の記者会見で、「だれと交渉するか? たしかに、これは漠然とした疑問ではない。もちろん、現在の国家元首のレジティマシー(合法性)が終わったことは承知している」とのべた。そのうえで、平和サミットの目的の一つが「まさに西側社会とキエフ現政権のスポンサーに、現職の国家元首のレジティマシーを確認させること」であると指摘している。 その通りだ。平和サミットに出席すれば、ゼレンスキーに大統領としてのレジティマシーがあると認めたのと同然だからである。なぜなら、ゼレンスキー自身そう宣伝するに違いないからだ。 (出所)http://kremlin.ru/events/president/news/74108/photos/76382
遠い和平
そもそも、ゼレンスキー大統領は、平和サミットで和平協議を前進させようと期待しているわけではない。カザフスタンの『Orda』とのインタビューで、スイスで開催されるサミットで、ウクライナは「平和の公式」の10項目のうち3項目を提示するとのべた。この「平和の公式」というのは、2022年11月15日、G20の席上でのビデオ演説のなかでゼレンスキー大統領が示した戦争を停止するための10の提案を指している(詳しくは拙著『ウクライナ戦争をどうみるか』202~203頁)。 この3項目とは、エネルギー、核、食糧安全保障である。これらは大切な和平条件となりうるが、もっとも重要な「ロシア軍の撤退と敵対行為の停止」といった提案項目をどう具体化するかまで踏み込まなければ、和平は決して実現しない。しかも、この問題をロシア抜きで議論するのは常軌を逸している。 しかも、ウクライナは5月13日に、米軍装備を使ったロシア領内への攻撃禁止を解除するように正式に要請し、同月30日に米当局が許可を出したばかりの時期に、平和サミットを開催する意味がわからない。米政府が許可したのは、射程距離約50マイルのHIMARSロケット砲のような武器に限定されており、ATACMSのような長距離兵器のロシアへの使用を禁止されたままだ。それでも、戦争激化の様相が高まるなかで、こんなサミットを開催するのはどう考えてもおかしい。 だからこそ、今回の平和サミットは茶番劇にすぎないと断言できるのだ。不可思議なのは、民主国家を標榜するアメリカ、EU諸国、日本などがゼレンスキーの大統領としての合法性について何も言わないことだ。そんな国が集まって、平和サミットとは、笑止千万である。
塩原 俊彦(元高知大学大学院准教授)