ウクライナ「平和サミット」が茶番劇である理由
ウクライナ政府の「でしゃばり」
ゼレンスキー大統領の思惑はウクライナ政府の「でしゃばり」によって証拠立てることができる。スイスが主催する以上、スイスが主導権を握ってサミットを準備するべきだろう。ところが、ウクライナ側は自分たちの目論見に沿うかたちで平和サミットを主導するようになる。 2月25日、アンドリー・イェルマーク大統領府長官は、「招待状はすでに準備されており、160カ国以上に送付される予定だ」と明らかにした。加えて、彼は、「第二回サミットでは、ロシア連邦の代表を招待し、このプラン[第一回平和サミットでの計画]を提示することになるかもしれない」と、まるで主催者であるかのような口ぶりで語ったのである。 招待状はあくまでスイス政府によって発送される。しかし、自分の合法性を承認する機会とすべく、平和サミットにできるだけ多くの各国首脳を集めたいゼレンスキー大統領は、5月21日、イラクのムハンマド・アル・スダニ首相に電話をかけ、彼を正式にスイスに招待した。主催者であるスイス外務省が、招待状を送る権限はスイスにしかなく、ウクライナ側は関与してはならないと警告しているにもかかわらず、イラク首相への電話は行われた、とするロシア側の報道もある。 5月27日付のブルームバーグ報道によれば、ジョー・バイデン米大統領はハリウッドの資金集めのためにこの会合を欠席する予定だ。その代わり、G7会議の傍らで、アメリカとウクライナの安全保障協定が署名される見通しとなっている。 これは、2023年7 月、リトアニアの首都ヴィリニュスで開催された、NATO サミットで合意したコミュニケおよび、同サミットに合わせて開かれた主要7 カ国(G7)の「ウクライナ支援共同宣言」をもとに、各国とウクライナとの間で締結されるようになった有効期間10年の安全保障協定である。2024 年1 月12 日、イギリスとウクライナとの間に締結されて以降、ドイツおよびフランスも2024 年2 月16 日、ウクライナとの間で安全保障協力に関する2 国間協定に署名した。いずれも有効期間は10 年だ。その後、デンマーク、カナダ、イタリアなどとも同種の協定が結ばれた。アメリカもウクライナへの追加支援予算が議会で認められたことから、ようやく同種の協定に調印できるようになったのである。 他方で、ゼレンスキー大統領の目論見に気づいている中国は、平和サミットへの参加に慎重だ。5月31日付のロイター電は、スイスで開催されるウクライナ和平会議について、ロシアとウクライナの双方が参加するという中国側の期待に沿わないため、中国は出席しないと中国外務省が同日発表したと伝えた。 ゼレンスキー大統領は、6月2日、シンガポールで開催された安全保障会議に出席した。席上、彼は、「今日、ロシアは世界平和サミットを妨害しようとしている。私たちは106カ国の確認を得ており、これは世界の指導者、国家の高位代表という高いレベルのものだ」と発言した。しかし、本来、今年の安保議論はアジアに方向転換したいところだったため、平和サミットへの参加を求めるゼレンスキー大統領の発言は場違いに映った。