VRゲームを全身で楽しめるランニングマシン型デバイス「Omni One」レビュー
「Omni One」とは いつかリビングルームで没入型の仮想現実(VR)ゲームを遊びたいと夢見た人もいるだろう。Omni Oneとともに、その日がついにやってきた。ただし、良いニュースと悪いニュースがある。 【記事内の他の写真を見る】 Omni Oneは全身で仮想空間を体験できるVRシステムで、ヘッドセット、コントローラー、上半身を支えるサポートベスト、すり鉢状のトレッドミルがセットになっている。ゲームなどのVRコンテンツを没入感たっぷりに体験できるように設計されており、実際に歩き、走り、しゃがみ、ジャンプすることでゲームをプレイできる。筆者は2~3週間ほど前からOmni Oneをテストしており、同僚たちにも試してもらった。とても楽しいが、使いこなすには慣れが必要だ。 Omni Oneを開発したVirtuixは、「Omni Arena」の開発元でもある。Omni Arenaは仲間とリアルタイムで協力プレイが楽しめる、アーケードゲーム風のVRデバイスだ。Omni Arenaが施設向けであるのに対して、Omni Oneは家庭用に設計された新製品となる。シングルプレイ用だが、オンラインマルチプレイにも対応しているため、他の人と一緒に遊ぶことも可能だ。 全身を使ってVR世界を体験 まずは、前方にセンサーが付いた専用シューズを履く。シューズは事前に付属のUSB-Cケーブルで充電しておく必要がある。シューズの底部分についた滑り止めパッドは、摩擦の程度を2段階で設定できる。通常の歩行時は摩擦が強い緑色のパッドを、プレイ時には摩擦が少ないグレーのパッドを使う。 専用シューズを履いたら、滑りやすい、すり鉢状のベース部分に乗り、サポートベストに体を固定する。ハイキング用の大きなバックパックを背負ったようなイメージだ。左肩の近くにあるボタンを押すとシステムのロックが解除され、自由に回転できるようになる。サポートアームについたダイヤルを使って抵抗やサポートの強さを調整し、安定感を高める。 Omni Oneのベース部分がすり鉢状になっているのは、VR空間を移動し続けるためには何度も元の場所にすべって戻る必要があるからだ。いわゆるランニングマシンのように、足下のベルトが回転し続けるわけではない。例えるなら、つるつるの氷の上を歩こうとしても、すべって元の場所に戻ってしまい、前に進めない状態に似ている。言っておくが、最初はかなり苦労する。 バックパックに体を引っ張られるため、何かを後ろに引きずっているように感じる。このおかげで、ゲーム中も前に倒れる心配がない(ゲームでは普段よりもかなり前傾した姿勢で歩くことが多い)。フットトラッカーに足の動きを正しく認識してもらうためには、足を自分が考えている以上に高く上げる必要がある。スノーシューを履いて雪の上を歩くときのように、大げさに歩かなければならない。繰り返しになるが、Omni Oneでの動きは慣れが必要だ。 設置場所の広さやプレイヤーの体格にも制限がある。対応身長は約132~193cm、体重は約113kg以下、サポートベストが対応できる最大胴囲は約117cmだ。設置面積は約122cm×152cm、高さは約122cmとなっている。重量は約68kgもあるが、幸い、後ろにキャスターが付いているため、傾ければ簡単に転がせる。ステップの下には小さな収納スペースがあり、シューズなどを収納可能だ。 動画のキャストにも対応しているため、テレビに無線接続して、自分が体験しているVR空間を他の人にも見てもらうことができる。友人が遊びに来たときなどは便利な機能だ。ヘッドセットは頭頂部のベルクロストラップや後頭部の締め付けホイールで調整し、自分の頭のサイズに合わせることができる。問題はシューズだ。 専用シューズは3サイズ用意されている。シューズを履かなければOmini Oneは使えないため、友達を家に招いて一緒にVRを体験しようと思っても、足のサイズが違いすぎると共有できない。ヘッドセットが頭の大きさに合わせて調整できるように、シューズも何らかの方法でサイズを調整できるようになるとうれしい。Virtuixは予備のシューズも販売しているが、左右1組で99ドル(約1万5000円)もする。ちなみに、トレッドミルを使わずにヘッドセットとコントローラーだけでもプレイはできるが、魅力はかなり減ってしまう。 ヘッドセットは「PICO 4 Enterprise」をカスタマイズしたもので、8コアの「Qualcomm XR2」チップセットと256GBのストレージを搭載する。解像度は片目あたり2160×2160ピクセル、1200ppiだ。映像はシャープで、パンケーキレンズにより105度の視野角を確保する。さらにアイトラッキングとインサイドアウト方式のトラッキング、フルカラーパススルーにも対応する。 Omni Oneの没入度 Omni Oneは、使い始めは違和感があるが、遊んでいるうちにすぐに慣れる。調整しながら使っていくことで、アームのダイヤルを直感的に操作し、サポートの強さを調整できるようになる。では、実際にどの程度の没入感が得られるのだろうか。すべてがうまくかみ合って、本当にゲームの世界に入り込んだように感じられる瞬間もあるが、ほとんどの場合はゲームの中をぎこちなく歩いたり、走ったりしているように感じる。 Omni Oneはエクササイズにも重点を置いている。ベストが抵抗を生み、歩くときも意識して足を動かさなければならないため、一種のトレーニングになるが、これは欠点でもある。シューズを履くにも、ストラップを締めるにも、ゲームをロードするにも時間がかかるので、気軽に15分ほどさくっと遊ぶというわけにはいかない。しばらく使っていると、今度は汗が吹き出してくる。筆者の場合、プレイ中に扇風機を自分に向けて涼まなければならないほどだった。 歩数と消費カロリーは記録され、ディスプレイ上に表示される。エクササイズ要素がOmni Oneの売りの1つであることは間違いない。筆者は運動が嫌いではないが、ゲームをしたい気分のときは、あとでシャワーを浴びなければと考えること自体が負担だ。シャワーの時間も確保しなければならない。つまり残念ながら、Omni Oneは短時間遊びたいときも、長時間遊びたいときも、それぞれに欠点がある。 価格は高すぎ、ゲームの数は少なすぎる もう1つの欠点は、ある意味では致命的とも言えるが、遊べるゲームの数が少なすぎることだ。Virtuixはゲームを購入できるストアを用意しているが、記事の執筆時点でラインアップは18タイトルくらいしかない(Virtuixによれば、近日中に31タイトルが追加されるという)。筆者は仕事でゲームをプレイしているが、用意されているタイトルのほとんどは聞いたことのないもので、筆者がよく知っているVRゲームはOmni Oneでは利用できない。 Virtuixは、Omni OneをSteamのVRゲームプラットフォーム「SteamVR」と接続することで、遊べるゲームを増やせると主張している。この方法はまだ試していない。というのも残念ながら、SteamVRのゲームをプレイするためにはエミュレーションソフトウェアをインストールしなければならないからだ。しかも、ゲームごとに設定を調整する必要がある。そこまでしても「多くのゲームでは良好なロコモーション(仮想空間内での移動)体験は得られない」という。 Omni Oneの小売価格は2595ドル(約40万円)、ここに送料が追加される。ほとんどの人にとっては大金だが、他に類似品がないことも事実だ。この価格は、残念ながら今だけのもので、11月15日には3495ドル(約54万円)に引き上げられる。Metaの「Quest」シリーズで最も人気の高いVRヘッドセットの小売価格が、モデルにもよるが300ドルから400ドル(約4万5000~6万円)程度であることを考えると、トレッドミルがついているだけで2000ドルから3000ドル(約30~46万円)を余分に支払わなければならない。しかも遊べるゲームの数ははるかに少ない。 結論:予算があるなら試したいクールなVRデバイス Omni Oneが提供するVR体験は唯一無二のすばらしいものだ。友達に見せれば、誰もが試したいと言うだろう。すでにゲームプラットフォームとしてのおもしろさが認知されているVRだが、Omni Oneはその興奮と楽しさをさらに高めてくれる。ゲームに運動の要素を取り入れたいと考えている人にも役立つはずだ。 マイナス点は、遊べるゲームが限られていること、SteamVRなどのVRゲームライブラリにアクセスしにくいことだ。歩く感覚も自然とは言いがたく、常に完全に没入できるわけではない。こうした点や価格の高さを考えると、Omni Oneは勧めしにくい。 Omni OneはVRの未来をぐんと身近に感じさせてくれるが、現時点ではまだ初期の段階を出ていない。プラスアルファの要素としては楽しめるが、個人的にはVRゲームを遊ぶときのメインのデバイスにしたいとは思わない。今後の課題は、対応ゲームタイトルを大幅に増やすこと、ユーザーが汗だくにならずにすむように、もっとなめらかに移動できるようにすることだ。普通に歩いている感覚で、現在と同じレベルの安定感を実現できれば最高だ。 この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。