F1分析|息を吹き返した第2スティントのノリス……一方で心配すぎるフェルスタッペンのペース
エルマノス・ロドリゲス・サーキットを舞台に行なわれたF1メキシコシティGP。決勝レースは、フェラーリのカルロス・サインツJr.が完勝してみせたが、上位勢で特に印象的だったのは、マクラーレンのランド・ノリスの第2スティントのペースだったと言えるだろう。 【ランキング】逆転の可能性はあるのか? 2024年F1ドライバーズランキング ノリスはレース前半、3番手を走っていた。その間、レッドブルのマックス・フェルスタッペンと激しいバトルを展開することとなり、その一瞬の隙を突かれてフェラーリ勢に1-2体制を築かせてしまうことになった。 結局ペナルティ対象となったフェルスタッペンを抜けず、ペースの面でも付き合わされることとなったノリス。その間にフェラーリの、特にカルロス・サインツJr.が大きくリードを築いていくことになった。 ノリスの第1スティントは、フェルスタッペンに抑え込まれたことによってペースが上がらなかったとも言える。しかし、それだけではないように思う。
■ハードタイヤで一気にパフォーマンスを上げたマクラーレン
このグラフは、メキシコシティGP決勝レースの、上位勢のレースペース推移を折れ線で示したものだ。その中の、赤丸で囲まれた部分を見ていただきたい。 この頃、目の前を走っていたフェルスタッペンがピットインし、ノリスは前が開けた状態となった……つまりペースを上げることができたわけだ。しかしノリスのペースはそれまでと対して変わらず。サインツJr.との差は歴然であった。 つまり今回のマクラーレンは、少なくとも第1スティントに限って言えば、フェラーリと互角に争えるだけの速さはなかったと言えそうだ。 しかしタイヤをハードに変えると、ノリスは突然息を吹き返す。フェラーリ勢と同等のペースで周回を重ねたのだ。しかもスティント終盤には、ルクレールよりも圧倒的に速いペースで周回を重ねられるようになった(グラフ青丸の部分)。 ノリスもレース後、次のように語っている。 「良いレースだった。マシンはとても力強かったんだ。第1スティントはそうでもなかったんだけど、第2スティントは特によかった。フェラーリと比べて競争力があるという希望が湧いてきたんだ。それまでは彼らが優勢だったからね」 今回のレースで上位勢は、ミディアムタイヤでスタートし、後半をハードタイヤに履き替えるという1ストップ作戦を採った。今回のノリスのペースを、フェラーリと相対的に考えると、ミディアムではフェラーリの方が速く、ハードではマクラーレンの方に軍配が上がると言っていいだろう。もちろん、ミディアムタイヤを履いていた時のノリスはフェルスタッペンと争い、さらには常に乱れた空気の中を走らなければいけなかったことで、必要以上にタイヤを痛めつけていたという要素もあろう。またピレリのモータースポーツ責任者であるマリオ・イゾラは、「ミディアムタイヤにはグレイニングの兆候があった」と言っており、この影響もあったかもしれない。 いずれにしても、今のフェラーリとマクラーレンは非常に高いレベルで拮抗しており、今後もこの2チームによる激しい優勝争いが繰り広げられそうだ。 一方で気になるのは、フェルスタッペンのペースだ。 前出のグラフの紺色の線が、フェルスタッペンのペースを示したものである。スタート直後こそフェラーリ勢と同じペースで走ったが、徐々にペースダウン。これにノリスを付き合わせた。 そしてピットインし、ハードタイヤに履き替えた後も、ペースは上がらす。フェラーリ勢やノリスから、1周につき0.5秒前後劣るペースで周回を重ねた。 チーム曰く、今回は初日にパワーユニットのトラブルに見舞われたことで、2日目以降はフリー走行用にプールしておいたエンジンを使っていたため、満足いくペースを発揮できなかったのだという。今回のペース差がそのパワーユニットのパワー差に起因するモノならば良いが、もしその影響が小さいのであれば、残り4戦厳しい戦いを強いられることになるかもしれない。 今回の敗北により、レッドブルはついにコンストラクターズランキングでは3番手に後退してしまった。今回のパフォーマンス差を見ると、とてもではないが、フェラーリやマクラーレンを抜き返すことは難しいのではないかと考えられる。また、まだ差はあるものの、ドライバーズタイトルをノリスに奪われてしまう可能性も、否定できなくなってきた。 今季は残り4戦。フェルスタッペンとノリスの差は47ポイントである。
田中健一