迫る危機 介護と「高齢者1人あたりの単価」
団塊の世代がすべて75歳以上になる「2025年問題」にどう対応すべきか。全国介護事業者連盟理事長の斉藤正行さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】 【写真】家族で外出 東京・浅草で ◇ ◇ ◇ ◇ ――介護は大切なことだと思われるようになりました。 ◆格段によくわかってもらえるようになりました。しかし、現場の待ったなしの感覚はまだ、十分には伝わっていないと感じます。なんとなく少子高齢化が大変だと思っていても、近い将来に危機的な状況に陥るとは、思われていません。 ――高齢者の割合が増える社会とは、ということですね。 ◆「2025年問題」は以前から言われていて、こうなることはずっと前からわかっていましたが、備えは十分ではありません。 ◇危機がすぐにやってくる ――一番のポイントはどこですか。 ◆人がいないことです。介護が必要な高齢者が増えていくなかで、現役世代は減っていきます。人手不足はどの業界も同じだとよく言われますが、他のほとんどの業界にとっては、人口減少で市場が小さくなっていくなかでのことです。ところが介護は市場が拡大し続け、人を増やさなければならないなかでの人手不足です。 現場は今でもぎりぎりの状況です。このままやっていける見通しがなかなかみえません。 ――近い将来の話ですね。 ◆特に都市部は経営状況というより、人手が確保できないから一部の事業所を閉めることがすでに起きています。 介護を受けられない介護難民が出る可能性があります。特別養護老人ホームのような特定の分野だけではなく、ヘルパーさん、在宅サービスまでふくめた介護全般での供給不足が、かなり高い確率で起きるとみています。 もう一つ大きいのは、介護ニーズの多様化です。画一的なサービスではなく、個別の多様なサービスが求められるようになっています。こちらも負担になっています。 ◇高齢者1人あたりの単価 ――国の財政の影響も指摘されています。 ◆社会保障全体から見れば、給付を受ける高齢者が増える一方で、負担する現役世代が減っていきます。どうしても、高齢者1人あたりの単価は下がらざるをえません。もちろん、事業者は単価を上げてほしい立場なのですが、そうも言っていられないということです。 今でも厳しい介護の現場がさらに厳しくなると、本当に深刻になります。私たち事業者は、5年、10年ぐらいはがんばってやっていけても、その先、20年、30年となると、とてもではないが対応していけない、と感じています。 ――国も介護にはてこ入れをしています。 ◆介護の苦しい状況については、政府も問題認識を持ってもらっています。厳しい財政のなかでも、処遇改善などの政策は打たれています。でも私たちの立場から言えば、ここ10年ぐらいはそれでもってもその先は難しい、ということです。いよいよ人口に占める高齢者の割合が増えていくと、社会全体の危機が訪れるのではないでしょうか。 ◇ここ10年で ――ここ10年ぐらいの対応がカギですね。 ◆介護に対する政策の優先順位をもう少し上げてもらいたいのです。2040年には高齢化率(65歳以上の人口に占める割合)は35%前後になると予想されています。ここを最優先にしなくてどうするのかということが一番、はがゆいところです。 国会でも介護についての議論が少なすぎます。骨太方針や経済対策でも、政党の選挙公約でも、介護についての記述は昔に比べれば、劇的に増えています。しかし前は1行だったものが数行になったということです。 もう少し、社会全体でも、政治の場でも、議論してもらいたい、話し合ってもらいたいと思っています。(政治プレミア)