「えっ…この香車は何?」藤井聡太22歳が“AIに指せない勝負手”で評価値13%→99%「催眠術のよう」A級棋士・中村太地が解説で混乱した理由
藤井聡太竜王・名人(王位、王座、棋王、王将、棋聖と合わせて七冠=22)がタイトル防衛劇を果たす一方で、伊藤匠叡王(22)が八冠独占を崩すなど、2024年の将棋界は新たな勢力図が生まれている。順位戦最高峰のA級に在籍し、王座1期の経験を持つ中村太地八段に藤井将棋と棋界のこの1年を振り返ってもらった。〈全4回の2回目〉 【レア写真】「藤井くん、いつもは見せない笑顔が素敵すぎ…」豊島さんや永瀬さんと対局前に思わずクスクス…“普段じゃ見られない”素顔や「カワイイ…」6歳パジャマ姿など“愛される藤井聡太レア写真”を全部見る
八冠後も開拓を続ける藤井将棋…その原動力とは
藤井聡太竜王・名人(以下、藤井七冠もしくは各棋戦の称号)は2024年、八冠を独占した状態で2024年を迎えました。伊藤匠叡王にこそタイトルを奪われたものの、七冠を堅持。とてつもない偉業を成し遂げた後も相変わらずの強さ……はもちろんなのですが、戦型選択を振り返ると藤井七冠が常に変化を求めて、新しい挑戦をされているように感じていました。 これまでの藤井七冠は流行している戦型において、一番の課題とされている局面を突き詰めていくタイプだったのですが、2024年に入ってからはあまり注目されていない戦型を用いて戦うことがありました。具体的に言えば今年の叡王戦第2局や王座戦第1局で採用した「3三金型の角換わり」がそれにあたります。定跡があまり整備されておらず、開拓を意識されているのでは――と見ています。 なぜ藤井七冠が変化を求めているか。それはライバル棋士の準備・研究がさらに進化しており、相当ギリギリの戦いを強いられているからです。 それでも最後には勝ちを手にする藤井竜王・名人の勝負強さに、ABEMA中継で解説者として立ち会う機会がありました。それは王座戦第3局と竜王戦第6局の計2局です。それぞれ永瀬拓矢九段と佐々木勇気八段が挑んだわけですが、対局途中までは、完全に2人がペースを握っていたんです。 解説をしていた私自身の心境を思い出しながら――まずは王座戦第3局(9月30日)から振り返っていきましょう。
香車!? ええっ…これは何だ?
藤井王座が連勝で迎えた本局は、じっくりとしたプロ好みの研究手で、じっくりとした展開ながら一手一手が非常に難しい中盤戦に。その中で永瀬九段が終盤にかけて一歩抜け出しました。永瀬九段の研究の深さは良く知られるところですが、じつは実戦で勝ちやすい形を求める巧みさも秀でていて、2つの長所を切り替えられるのが最大の強みと感じています。 本局も手堅い指し回しで持ち時間も残っていて、あとは相手玉を寄せるだけという状況に進んでいます。盤面を見るとよく分かるのですが、終盤の後手玉(藤井王座)は防御する駒がほぼいない状態でした。だから、きっと永瀬九段本人も手ごたえがあったと思いますし、解説をしながら〈永瀬九段なら勝ち切るだろうな〉と思っていたのが正直なところでした。 ただ……深く考えてみると、最後の一押しを見つけるのが難しい。そうこうしているうちに両者1分将棋に突入して、大きく局面が動く一手を藤井王座が放ちます。 「△9六香」。 先手玉に王手をかける一手が出た瞬間、私はこんな反応だったそうです。 〈香車!? ええっ……これは何だ? なんですかこれは〉 評価値と候補手を見てみると、この時点で評価値は「永瀬87%-藤井13%」でした。でも解説の私や本田奎六段の第一観で浮かんだ「▲9七歩」で合駒(王手を持ち駒で防ぐ)した場合はマイナス86%、つまり「1%-99%」の大逆転になってしまう。AIが示す数値に正直なところ、40秒くらい〈え? ? ? ? 〉という感情しか生まれませんでした。 残り10秒くらいだったでしょうか。歩を打つと藤井玉の詰めろ(※次の手で何もしなければ詰ませられる状態)が解除されることに気づきました。正着は桂馬で合駒。しかし永瀬九段は魅入られたように9七歩を……まるで催眠術に操られたような感覚でした。 これは永瀬九段や我々だけでなく、藤井王座も含めたものだったのでは、と今では考えています。 使った時間を見る限り、意図的に〈永瀬九段の間違い〉を狙うような指し手ではなかったんです。もしノータイムで「△9六香」としていれば、永瀬九段も「これは罠なのでは?」と察知したと思うんです。しかし藤井王座は1分の持ち時間を使い切ってこの一手を繰り出しており、ギリギリで判断したことが見て取れます。これを受けて永瀬九段は〈藤井王座が何か必死にひねり出そうとしているけど、見つけられなかったのか? 〉という思考回路に陥ったとしても何らおかしくない。そういった要因が積み重なって、大逆転劇につながったのだろうと今は考えています。
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