どうなる? F1界の格差問題
F1は、これまでも予算削減に向けた動きをしてきたことがある。それはリーマンショック後の2009年だ。それまで行ってきたシーズン中のテスト を自粛したのである。これによって、下位チームの経済的負担が軽減されたが、だからといってトップチームが自ら予算を減らすことはなかった。とい うのも、テスト禁止によって浮いた予算を開発費へ回しているからだ。予算的に問題がないトップチームはいかに節約するかというチーム経営の心配よ りも、成績を上げることを最優先課題であるため、予算を削減したり、節約することはそもそも眼中にないのである。トップチームで構成されている戦 略グループが、予算制限計画に同意しなかった背景にはそんな事情があった。 しかし、これでは下位チームとトップチームとの差は開くばかり。昨年は一部のチームがドライバーへの給与未払い問題が表面化するなど、財政事情 は日に日に深刻化している。そこで下位チームは異なる方法で予算を制限させる手に出た。それが金曜日のフリー走行の一部廃止など、F1グランプリ自体の抜本的な改革であ る。これは5月6日の会議で、下位チームから出された独自のコスト削減規約案のひとつだった。これ以外にも、フロントウィングの仕様変更を、1 シーズンあたり最大4回までに制限したり、アクティブサスペンションを導入して、パルクフェルメ状態を長くしてパドック夜間外出禁止令を厳しくし たり、タイヤ・ウォーマーを禁止したり、18インチタイヤの導入など、さまざまな提案がなされた。マルシアのチーム関係者は「5月6日の提案はま だ素案で、次の会議で具体的な話し合いが行われるだろう」と述べ、2週間後のモナコGPがその舞台となるのではないかと 語った。 下位チームが会議を急ぐのには、理由がある。2015年のレギュレーションを変更するには、6月30日までに過半数のチームの合意が必要だから である。さらにザウバー、フォース・インディア、マルシア、ケータハムは、「戦略グループが予算制限計画を否決したことは、ヨーロッパの独占禁止 法に違反する可能性がある」という書簡をトッドに送って、トップチームへプレッシャーをかけている。 「来シーズンの開幕戦に今年の11チームがすべていると思うか?」と尋ねられたトロ・ロッソのフランツ・トスト代表は、厳しい表情で次のように答 えた。「その質問に答えるのは非常に難しい。われわれは生き残っているだろうが、ほかのチームはわからない」。F1チームはいま、コース上だけでなく、コート外でも必死に戦っている。 (文責・尾張正博/F1ライター)