「腕が4本増えたら」どんな服を着る? 身体拡張をファッション視点で考える【東京大学・稲見昌彦教授】
ー腕が増えるという機能以上に、とても美しいロボットです。 この「自在肢」によって多くの発見が得られています。現在はアーム部分をほかの人が遠隔操縦するシステムをとることが多く、ロボットを通して「複数の人間が協働」していることになります。 ではこの操縦者をAIに置き換えたらどうなるのか? あるいは背負っている人の運動をセンシングしてアームを動かす場合は? 「身体」「服」「他者」などの属性をあわせ持つロボットです。さらに使いなれた「自在肢」を誰かに貸そうとする場合、もとの所有者はどう感じるのかなども研究しています。 ーたしかに「自分の服を貸す」ことにも特別な感情が伴います。 服は大量生産品でありながら肉体化されてもいるからです。裸で外出する人がいないように、そもそも人間は「服を着た状態」でなくてはほぼ社会活動ができません。だから着ている服を遠慮なく触られると身体にじかに触れていなくても嫌な気持ちにもなるし、アイデンティティというものがあるとすれば、それと自分自身のズレを補完するという内面的な機能も服は持っています。 そうした意味ではウェアラブルロボットはまだ服ほどは自己と密着した存在になっていません。ですが「自在肢」にまつわる印象的なエピソードがあります。あるアパレルデザイナーの方が研究室に見学に来られたことがあります。そのとき「自在肢」のための服を考えたい、と言ったんですよ。 ーロボットによって拡張・変形された身体は、どんな服を着るのか。いままでのファッションにおいて前例がないテーマです。 愛着のあるロボットなら、それに似合う服を着たくなるかもしれませんね。ロボットは人間と可動域が違いますから、服のデザインも当然変わるはずです。また別の視点では「人の身体の形」を問い直す時期に来ているとも言えるのではないでしょうか。これは当プロジェクトにおいても重要なポイントです。私たちは「身体自在化」の効果を「超感覚」「超身体」「幽体離脱・変身」「分身」「合体」と位置づけていますが、これは身体のDX(デジタルトランスフォーメーション)とも言えます。