律儀な中日・松山晋也、「試合前の取材に対応できなくてすみません」わざわざ伝言を頼んだわけ ◆蔵出し秘話(1)
自主トレからキャンプに公式戦…といかなる時も竜戦士を追い続けた本紙ドラ番記者6人による、とっておきの話「蔵出し秘話」。6回連載の第1回は後藤正樹記者。松山晋也投手(24)とのエピソードをつづります。 7月下旬、記者の携帯が甲子園駅で鳴った。「松山君から伝言を頼まれたので伝えます。『試合前の取材に対応できなくてすみません、暑すぎて熱中症になるかと思ったので。またドームのときとかにお願いします』とのことです」。先輩記者からのメッセージだった。 シーズン中、試合前練習を取材し、試合に入っていくのが記者の一日の流れだ。7月27日の阪神戦前、甲子園球場の三塁側ベンチ横で松山に声をかけた。普段は気さくに取材に応じてくれる右腕だが、その日は「すみません、きょうはちょっと」。多忙な選手に取材を断られることは珍しいことではない。だからこそ、翌日も球場で顔を合わせるであろう記者にわざわざ伝言を頼んだことに驚いた。 後日、松山にお礼とともに言づてをした理由を尋ねた。「お互いに仕事、ビジネスですから」とニヤリとした後、すぐに表情を引き締めて続けた。「あの日、取材に答えなかったことをすごく反省したんです」 あの日とは、開幕2戦目だった3月30日のヤクルト戦(神宮)。1点リードの8回に登板するも、オスナに同点適時打を浴びて降板した。前日も失点し、逆転負けのきっかけとなっていた。開幕からいきなり2試合連続で仕事を果たせず、口を閉ざしてホテルに向かうバスに乗り込んだ。 「あそこは自分が話さなければいけなかったとホテルに戻ってからも思いましたし、それからどんな時でも必ず答えると決めました」と右腕。冒頭の甲子園での試合前の取材は、投球結果に関わるものではない、いわばイレギュラーな形。それでも”自分ルール”を守ることができなかった。その対応に自戒も込め、伝言を頼んだのだ。 打たれてしまった時の対応も改めたという。「まずは相手をたたえて、次は必ず抑えると記者の方の前で言います。言葉にすることで、自分の力になると思ってます」。これを聞いて思い返したのは、5月31日のオリックス戦(京セラ)。同点の9回にサヨナラ犠飛を浴びた右腕はオリックス打線をたたえ、リベンジを宣言した。2日後の同戦で、再び同点の9回に登板。三者凡退に仕留め「やり返すことができました」とうなずいていた。
中日スポーツ