2014年のテレビを振り返る(3)── 「美談」「イイ話」にだまされた1年 水島宏明
「作られた美談」にまんまとだまされた1年
2014年はテレビの作り手たちがだまされ続けた1年だったとも言えます。 一言で表現するなら「イイ話」「よくできた物語」「美談」にひっかかってしまったのです。なぜだまされたのか? その理由を考えていくと、現在のテレビ番組というものがかかえる構造的な問題が見えてきます。 さて「作られた美談」とは……? そう聞いてみなさんがまっさきに心に浮かべるのは「佐村河内」問題でしょう。「全聾の作曲家」「現代のベートーベン」としてテレビ各局が一斉に持ち上げた佐村河内守氏ですが、週刊文春の記事が「ゴーストライターをやっていた」という新垣隆氏の告白を載せていなければ、この年末も佐村河内氏の曲があちこちで演奏されていたに違いありません。 現在、NHKと民放連が設立した第三者機関のBPO(放送番組・倫理検証機構)の放送倫理検証委員会で佐村河内氏を扱ったテレビ番組について放送倫理違反があったかどうか審議をしているところです。審議の対象になっているのは実に7つの番組です。NHKも民放もキー局も地方局も……そろって佐村河内氏の「天才」ぶりや「障害を乗り越えた」という“美談”を伝えていました。それだけ多くのテレビ局やそこで番組を制作している人たちが佐村河内氏が演じていたことを見抜けなかったということです。 なかでも私にとってショッキングだったのは、テレビ業界でもチェックが厳しいことで知られる「NHKスペシャル」まで「魂の旋律~音を失った作曲家~」(2013年3月31日)という放送で佐村河内氏を持ち上げるような番組を放送していたことでした。 なかでも彼自身が作曲して、譜面に書き込むシーンはドキュメンタリー番組のなかでは一番のキモになる場面のはずですが、そこを本人が撮影を拒否した、と説明するだけで撮影しないままに終わった「詰めの甘さ」は同業者からも批判にさらされました。実はNHKスペシャルはまだマシな方でした。 TBS の「中居正広の金曜日のスマたちへ」の「音を失った作曲家 佐村河内守の音楽人生とは」(2013年4月26日)などは、彼のこれまでの人生も本人の自己申告通りに再現VTRを作るなど、今になってみると滑稽そのものの番組です。ナレーションもよくよく聞けば「ありえない」場面がいくつも登場します。