2014年のテレビを振り返る(3)── 「美談」「イイ話」にだまされた1年 水島宏明
もうひとつの「イイ話」にもだまされた!
もうひとつあった「イイ話」とは……? もうみなさんお分かりでしょう。そう、STAP細胞です。年末になってから理化学研究所の正式な報告がまとまりましたが、「STAP細胞はなかった」という結論がはっきりしました。 一番、最初にSTAP細胞がニュースになった時に、「リケジョ」の小保方晴子さんが「おばあちゃんの割烹着」の姿で実験を繰り返し、ピンクの小道具だらけの実験室が強調されました。さらに、「これはノーベル賞ものの発見」という報道が少なくありませんでした。 佐村河内氏の件もそうですが、テレビ制作者も「美談」が大好きです。そして私たち視聴者も同じです。こんな話になってほしいと、自分たちが見たい美談の物語のイメージにどんどん引っ張られていきます。 そうした中で、日本人の「リケジョ」、しかもルックスも良くて、おしゃれにも敏感な女子が世界的な発見をした、という話題です。みんなでこの感動を共有しましょう、とばかりにこれでもか、と「リケジョ」「割烹着」「ピンク」や着ていたワンピースの「ヴィヴィアン・ウエストウッド」「巻き髪」まで、話題は沸騰しました。 でも、テレビで伝える時に、科学的な意味での検証がどれほど行われたでしょうか? テレビ局には、「科学担当の記者」などというのは存在しません。新聞には科学部があったり、NHKには報道局のなかに科学文化部というセクションも存在しますが、民放にはありません。科学に強い記者がいても、それは原子力や災害などの報道で力を発揮する程度です。STAP細胞などの科学や科学的な論文についてくわしい記者というのは、もしも存在したとしても数えるほどでしょう。 科学的な、つまり、専門的な立場からの検証を怠った末に、まんまとだまされてしまいました。これらの事件でテレビが学ぶべきことは2つです。自分のテレビ局のなかに「専門的な制作者・記者」をきちんと置くこと。それから「美談」や「イイ話」こそ、疑ってかかってチェックを厳しくすること。 そこははっきりしているはずなのに、今年のこうしたテレビ報道の間違いを経験してもなお、テレビ各局からここをこう改善します、という声は聞こえてきません。 釈然としないのは、だまされていた、ということが分かった時、テレビ番組が佐村河内氏を袋だたきにし、小保方さんを袋だたきにして、以前は一斉に持ち上げていた自分たちの側の「問題」には見ぬふりをしていることです。これでは来年以降も同じような間違いを犯してしまうことになります。「美談」にだまされた2014年の教訓にぜひ学んでほしいものです。 ---------------- 水島宏明(みずしま ひろあき) 法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター。1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー 『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科 学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。近著に『内側から見たテレビ』(朝日新書)。