「動けない大国」アメリカの行方 第1回:“弱腰”オバマ外交 覇権は終焉か /上智大学・前嶋和弘教授
「内向きになったアメリカはもはや“世界の警察官”ではない」「オバマの弱腰外交で、東アジアも中東も不安定なままだ」「アメリカの覇権は既に終わった」――。こんな言葉が世界の論壇を頻繁ににぎわせている。では実際、アメリカの外交政策はどこに向かっていくのであろうか。本稿では5回にわたって、アメリカ外交の現在を分析し、その変化の可能性を展望する。
(1)シリア危機での“弱腰”対応
アメリカの政治外交を長年見てきたものとすれば、ここ1、2年のオバマ政権の外交を見ると、いらだってしまうことが少なくない。 昨年2013年8月末から9月はじめのシリア危機への対応はその典型的なものだった。自国民に対して化学兵器を使ったとされるアサド大統領に対して、ケリー国務長官は8月30日の記者会見で目をはらして「殺人者」と激しく非難した。 化学兵器の使用はオバマ政権が事前にアサド大統領につきつめた「レッドライン(越えてはならない一線)」であったはずだった。そのため、アメリカのシリアへの攻撃が秒読み段階であるようにみえ、中東をめぐるアメリカ主導の長期戦の開始を世界はかたずを飲んで状況を見守った。 しかし、その翌日の8月31日、一気にトーンダウンする。オバマ大統領が「シリアへの攻撃は事前に議会の承認を求める」と会見で述べたためだ。米軍は既にシリアの化学兵器使用を受けて攻撃準備段階だったが、極めて現実味を帯びた介入が一気にしぼんでいった。その後、ロシアのプーチン大統領が介入することで、アサド政権は現在まで延命している。
(2)当初は斬新だったオバマ外交
オバマ政権の外交姿勢を一言で表せば、「プラグマテック」という言葉になろう。外交交渉を重視し、イデオロギーにこだらず、状況に合わせて柔軟に変化に対応するというこの姿勢は、国際政治でいうところの「現実主義(リアリズム)」に通ずるところがある。 「独裁政権の体制変革(レジームチェンジ)」という大きな理念を掲げたネオコンが主導したブッシュ前政権の外交姿勢の記憶が強く残る中、オバマ政権の一期目の間は、オバマ外交が目新しかった。 『背後からの指導(leading from behind)』という言葉がある。2011年のリビアへの軍事介入の際に代表されるような、攻撃の前面にアメリカが出ようとしないオバマ政権の外交戦略を揶揄した言葉だ。この『背後からの指導』にしろ、ドローン(無人偵察機・爆撃機)の多用にしろ、批判は多いものの、いずれも米軍の負担を最低限にするという意味ではアメリカにとっては現実的な政策だった。2012年の大統領選挙で再選を果たした際も対抗馬だった共和党のロムニー候補に世論調査で大きく勝っていたのは、現実的なその外交手腕だった。