掛布雅之が岡田監督に送るメッセージ。「金本の全力疾走、矢野監督の築いた財産。阪神も巨人のようにバトンタッチを大切にしてほしい」
◆監督のバトンタッチ 2022年まで4年間指揮をとった矢野燿大(やのあきひろ)監督の財産も忘れてはいけません。 すごくベンチが明るくなる野球をやり、いろんな選手を使いながら、3年連続Aクラスでバトンを渡しました。 梅野隆太郎(うめのりゅうたろう)がケガで戦列を離れても、2番手の坂本誠志郎(さかもとせいしろう)がゴールデン・グラブ賞を獲得できる活躍でカバーしたのは、矢野監督が併用して使って経験を積ませたからです。 近本光司も中野拓夢(たくむ)も佐藤輝明も、矢野監督のもとで成長した選手たちでした。その上で中野の遊撃から二塁コンバートや、ポジション、打順の固定による、岡田彰布監督の「勝てる野球」が花を開いたのです。 前回日本一の1985年は、84年まで監督を務めた安藤統男さんがバースを獲得し、私や岡田を育ててくれて、土台を築いていました。 そういう監督のバトンタッチが脈々と続くのが、小林繁さんの言うところの「巨人には伝統がある」ということだと思うのです。
◆岡田監督に期待すること 巨人の歴代監督は阿部慎之助で第20代です。一方の阪神は2度目となった岡田監督が第35代です。そして、日本一の回数は巨人が22回で、阪神が2回。この数字こそ阪神がバトンタッチをおろそかにしてきたことを物語っています。 過去は勝てない理由をすべて監督に押し付け、トカゲのしっぽ切りのようにして、「伝統」がぶつ切りになってしまうことが多かったのです。 だからこそ2023年に2度目の日本一に導いた岡田監督は今までの阪神にない美しい形で、次の監督にバトンを渡してほしいのです。 2023年のシーズンで巨人・原辰徳監督は東京ドームの最終戦のあいさつに立ち、「マイクもすべて新監督に渡す」と阿部慎之助に託しました。 巨人はずっとそういう風に監督交代の「引き継ぎ」がありました。ある意味では坂本勇人の遊撃から三塁、岡本和真の三塁から一塁へのコンバートも原監督の置き土産のようなものです。 岡田阪神の2023年のスローガンの「A・R・E」の「R」はOBの方たちへのリスペクトという意味も込められているといいます。 生え抜きの監督として日本一となった岡田監督は、今度こそ常勝球団として強固な土台を築いて、次の監督にバトンタッチしてほしいのです。 ※本稿は、『虎と巨人』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
掛布雅之
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