ここもあそこも日本専用! スズキ入魂の新型SUV「フロンクス」に見る“こだわり”と“狙い”
インドの皆さん、ありがとう
このように、動的な部分はしっかりと日本向けに調律されたフロンクスだが、このほかの箇所を見ても、掘ればザクザクと変更点は出てくる。 スズキ最新のADAS(先進運転支援システム)やインフォテインメントシステムの採用は言わずもがな。日本ならではの利便性の要件も重視しており、車高はルーフレールを省くことで、一般的な機械式駐車場に入る1550mmに抑えた。荷室に備わる折り畳み&脱着可能なフロアボードも、実は日本独自のものだ。また、一見すると海外の上級仕様と同じに見えるボルドー/ブラックのインテリアも、私たちの感覚に合わせて一部を変更。ドアインナーパネルのボルドーの使用面積を減らし、ダッシュボードの装飾パネルも、光沢のあるブラックのものに置き換えたという。 加えて、これはクルマそのものの改良/変更の話ではないが、ボディーカラーの追加設定に関するお話も、ちょっと面白かった。プロトタイプ試乗記を読み込まれた方ならご存じのとおり、2024年7月時点では、日本での車体色は全7種類の予定だった。ところが発売に際して、「スプレンディッドシルバーパールメタリック」と「アークティックホワイトパール」のモノトーン2色が追加されたのだ。 もちろんこれも、「白・銀のモノトーンがないなんて、やっぱりありえない!」という日本側の要望によるもの。タイミング的に、先行展示会での来場者の意見もくんだものと思われるが、スズキが最後の最後まで日本市場への最適化にこだわったこと、また発売直前の仕様変更にも、インド側が柔軟に対応してくれたことがうかがえて興味深かった。……いやきっと、裏では「いまさら!?」「頼むよ!」とひと悶着(もんちゃく)あったんでしょうね(笑)。
「運転して楽しい」はお客の心をつかむのか?
さて、そんなスズキ期待の新型車フロンクスだが、発表会ではちょっと意外なことも印象に残った。今どきのクルマとしては珍しく、乗る・走る・運ぶにまつわる自動車としての基本性能が、前向きにアピールされていたのだ。 例えばプレゼンテーションでは、鈴木俊宏社長が「運転する人が楽しく、後席の人も快適なモデルとして、多くのお客さまに喜んでいただけると思う」と発言。チーフエンジニアの森田祐司氏も「走行性能については、安心安全でありながら運転して楽しいことを目標に開発した」「自分で運転して楽しく、家族を乗せて遠くまで行きたくなるようなクルマに仕上げた」「一度見て、乗っていただければ、このクルマのよさを実感してもらえる」……といった具合だ。一体、何回「運転して楽しい」「乗ったらわかる」という言葉が出てくるのか、聞いててちょっとカウントしたくなったほどだ。 しかも、プレゼン後にはフロンクスにまつわるテーマごとの説明会も実施され、デザインと並んで「操縦安定性・乗り心地について」もお勉強。商品企画に関する質疑では、森田氏が「スポーティーな走りを求めたのではなく、『しっかりとした運転している感覚が欲しい』というお客さまの要望に応えたもの」と、その操安の狙いを教えてくれた。 読者諸氏ほどではありませんが(笑)、記者もこう見えてクルマ好きのはしくれ。デジタルだコネクトだとカタカナ用語が飛び交う昨今、潔く走りを推すスズキ関係者の話には、清涼な新鮮さすら覚えた……のだが、同時に「今どき『走りがいい』なんて言葉、お客さまのココロに刺さるの?」と、イジワルなことも考えてしまった。 しかし鈴木社長の話では、各地の展示会はいずれも大盛況で、受注もすでに9000台を集めているとか。若い人からの反響も大きく、これまでのスズキ車の客層にはない、それこそ「スズキ車をマイカーに」なんて考えもしなかった(失礼なやつめ!)という層の間でも、認知は広がっているという。「いいクルマができたぞ」と手応えを感じていたスズキとしても、さすがにこの反響はうれしい誤算だったそうだ。そして記者も、スズキの印象が白紙な彼らが、フロンクスを通してこのメーカーにどんなイメージを抱くことになるのか、ちょっと興味が湧いた。 船出に際し、ひとまずは追い風をつかめたといってもよさそうなフロンクス。その勢いは本物なのか? やがてはコンパクトSUVの勢力図を(ついでにスズキのブランドイメージも)ひっくり返す一台となるのか? 私たちでも頑張れば手が届くクルマで、久々に面白そうなのが出てきたぞ……と、ひとり会場の片隅でニヤニヤしていた記者でありました。 (文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=スズキ、webCG、向後一宏/編集=堀田剛資)
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