FCVは未来の主役にはなり得ない? 夢の水素カーが抱える課題とまっとうな普及の在り方
社会浸透を阻む価格とサイズの障壁
2024年9月5日、トヨタとBMWが水素社会の実現に向けた協力関係を強化すると発表した。詳細は別の記事を参考にしていただきたいが、乗用車での燃料電池自動車(FCV)のラインナップ拡大を見据え、第3世代の燃料電池システムを共同開発するとともに、インフラ整備も推進していくという。 【写真】BMWの水素燃料電池車「BMW iX5ハイドロジェン」の詳しい姿はこちら(20枚) 両社の協力というと、スポーツカーの共同開発生産をまず思い浮かべる人も多いだろうが、環境技術についても進めていたことは、2023年に実証実験していた「BMW iX5ハイドロジェン」がトヨタの燃料電池システムを搭載していたことでも明らかだ。それが次のステップに進むということになる。 このニュースを見て、伸び悩んでいる電気自動車(EV)に代わって、FCVが次世代エネルギー自動車の主役に躍り出ると思った人がいるかもしれない。でも僕はそう簡単には状況は変わらないと思っている。 まずFCVは小さく、安くできない。現在市販中の乗用車で最も小柄なのは日本車ではなく韓国車の「ヒョンデ・ネッソ」で、それでも全長は4670mm、全幅は1860mmある。価格が最も安い「トヨタ・ミライ」も、その値段は726万1000円から。FCVは、まだ多くの人が苦労なく買って乗り回せるクルマとはいえない。そもそも燃料電池スタック、水素タンク、バッテリー、モーターなど、多くの機器を搭載する必要があるし、水素タンクは現状では円筒形にしなければならないことを考えれば、これ以上の小型化や低価格化は大変かもしれない。 BMWがFCVに積極的なのは、大型・高価格のセダンやSUVを多くそろえているうえに、長距離走行のシーンが多い欧州のブランドということが関係しているはずだ。逆に小型大衆車までFCVにするのは、やはり難しいことなのではないかと思う。 こうした製品そのものの特徴に加え、以前から気になっていたのが、水素エネルギーを語るときに使われる「つくる/はこぶ/ためる/つかう」というフレーズ。そのなかに、「くばる」がないことだ。漢字で表すと、「製造/運搬/貯蔵/使用」で、「供給」が抜けているのである。