デフレ脱却へ解雇法制、高齢者の定義見直しにも言及 経済同友会夏季セミナー
長野県軽井沢町で開かれた経済同友会の夏季セミナーは4日、2日間の日程を終えて終了した。今春闘で高い賃上げを実現するなど、日本経済はデフレからの完全脱却へ、大きな転換点を迎えているが、実現に向けては課題が山積している。セミナーの議題も、高齢化や人口減少、地政学リスクなど多岐に及び、新浪剛史代表幹事は「(課題解決の)方向性は示せた。政治にも働きかけ、実現させていきたい」と強調した。 今春闘では大手企業で平均5%を超える賃上げが行われ、これまで値上げを躊躇してきた企業も、原材料高や人手不足を背景に製品やサービスに価格転嫁する動きが出始めている。 日銀も3月にこれまでの金融政策を転換させるなど、約30年続いてきたデフレからの脱却が近づいている。しかし、高齢化や人口減少といった課題に加えて、長年続いた日本の労働慣行や社会保障制度などが、日本経済が成長する阻害要因となっている。これまでタブー視され十分に取り組んでこなかった課題について新浪氏は「不都合な真実」と指摘し、変革の必要性を訴えた。 特に労働力不足が深刻化する日本では、多様な人材が活躍できる社会に変えていくことは不可欠で、大和証券グループ本社の田代桂子副社長は女性活躍が遅れている現状に「これはやる気さえあれば明日にでもできるテーマだ」と訴えた。雇用を流動化させ成長産業に労働力の移動を促すほか、企業が優秀な人材を多額の報酬で引き抜くといったリスクを取るには、「日本の解雇法制についても議論するべきだ」といった意見も出た。社会保障制度改革をめぐっては、年金の受給開始年齢の引き上げにもつながる高齢者の定義を「75歳にしてもいい」といった発言もあった。 もっとも日本経済が成長し続けなければ、持続的な賃上げにはつながらない。経済の牽引役となるスタートアップの育成についても議論し、転職サイト「ビズリーチ」を手掛けるビジョナルの南壮一郎社長は「大手企業がスタートアップ(新興企業)を合併・買収(M&A)することで自分たちの成長につなげる動きも必要だ」と指摘した。 議論は台湾有事などの地政学リスクにもおよび、地経学研究所の鈴木一人所長は「これまでは国やルールが守ってくれたが、今は企業が自己防衛する必要があり、どういう事態だと事業を継続し撤退するのか、平時からシミュレーションしておくことが重要だ」と警鐘を鳴らした。(蕎麦谷里志)