映画ライターの2024年海外ドラマ私的ベスト5!「自分や社会と向き合う時間をくれる、そして文句なく面白い!」良作をピックアップ
第4位『ディスクレーマー 夏の沈黙』
『ゼロ・グラビティ』や『ROME/ローマ』で知られる世界的な映画監督、アルフォンソ・キュアロンが手がけた初のドラマシリーズ。メイン・キャストにケイト・ブランシェットとケヴィン・クライン、撮影はキュアロンとタッグを組んできたエマニュエル・ルベツキと多くの名作を手がけてきたブリュノ・デルボネルによる二人体制と、とんでもなく豪華な布陣で作られた作品です。 原作はレネ・ライトによる同名小説。ジャーナリストとして成功したキャサリン(ブランシェット)が、あるとき一冊の自費出版の小説を受け取るところから物語は動き始めます。そこには、若き日のキャサリンがイタリア旅行の最中に、夫と息子がいながら若い男と情事に溺れていく様が描かれていました。自分の名声と家庭を壊しかねないその小説を出版した人間を探すうちに、彼女はスティーヴン(クライン)という初老の男性を突きとめます。 複数の視点やナラティヴが入れ替わりで現れるこの作品、なかなか過去の出来事の核心が明らかにされません。そうすることで、実際に起こったことに対してそれぞれで解釈が異なることを示しているのです。現代話題になるスキャンダルも、そのことでより狂騒的になっていると言えるかもしれません。 自分がこのドラマを観ていて感じたのは、「女性が欲望を持つことに対して厳しすぎないか?」ということでした。たしかに家庭を持つ女性が別の男性と肉体関係を持つことは道徳的に良くないことかもしれませんが、世間からここまで厳しく裁かれなければならないことなのでしょうか。……と思って観ていると、やがて物語は別の主張を展開します。そこでこのドラマが、現代の女性が受ける社会からの抑圧について描いた作品であることがわかるのです。エレガントな演出にクラクラしているうちに、現代社会の根深い問題と対峙することになる……そんな一作です。
第3位『一流シェフのファミリーレストラン』シーズン3
シカゴを舞台にレストラン再建のために奔走するシェフやスタッフを描いて高く評価されたこの作品、僕も昨年シーズン2をベスト5に入れました。ついにレストランがオープンし、ただただ必死に運営する様を描いたシーズン3はあまり物語が進まなかったことで賛否両論になりましたが、僕はけっして悪くなかったと思います。 というのも、そもそもこのドラマはレストランものとしてチームを作っていく過程が丹念に描かれるのが見どころですが、チームを強固なものにしていくためには、個々人がそれぞれの内面に向き合わなければならないことにしっかりフォーカスされていたからです。ひとりひとりに人生のドラマがあり、それが交わることで無二のチームが生まれていく……そんなことを見つめた、次の展開に向けての助走となるシーズンだったと思います。 とくに今回は、レストラン「THE BEAR」の中核を担う中年女性ティナ(リザ・コロン=ザヤス)がなぜシェフになったのかを描くエピソードが感涙ものだし、問題だらけの母親に扮するアカデミー女優のジェイミー・リー・カーティスの演技も圧巻です。次が最終シーズンになるかもと噂されているこの作品、未見の方もぜひ。
木津 毅
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