利上げへ「時間的余裕」封印…日銀総裁、早期実施に含み 政権不安定化でも正常化急ぐ
日銀の植田和男総裁は31日の金融政策決定会合後の記者会見で、追加利上げに向けた「時間的余裕」との文言を封印。早期の利上げに含みを持たせた。衆院選では与党が過半数を割り込み、政権運営は不安定化。米大統領選は結果次第で市場が乱高下するリスクをはらむ。それでも日米の経済・政治情勢を慎重に見極めながら、利上げのタイミングを探る構えだ。 「経済・物価見通しが実現すれば、金融緩和の度合いを調節していく基本的な姿勢を堅持する」。植田総裁は政治の不安定化が金融政策運営に与える影響を否定。あくまで独自に利上げを判断する考えを強調した。 衆院選では自民党と公明党が議席を大きく減らし、「少数与党」に転落。野党の協力なしに国会運営はままならない状況で、日銀はこれまで以上に政権との向き合い方に腐心することになりそうだ。 もともと石破茂首相は党総裁選時に日銀の判断を尊重するとしていたが、就任直後に株価急落を受けて「追加利上げする環境にあるとは考えていない」と言及。この発言で円安が急加速し、翌日には軌道修正したものの、利上げに慎重姿勢に転じたと日銀に動揺が広がった。 少数与党となれば、状況はさらに複雑化する。自民は31日、キャスチングボートを握る国民民主党と政策協議で合意。国民は「手取りを増やす」が公約で、実質賃金の確実な上昇を重視する。その実現まで積極財政と金融緩和を主張しており、「急激な政策変更はすべきではない」(玉木雄一郎代表)とのスタンスだ。 与党は今後、経済対策や補正予算の編成を進めるが、野党の協力が得られなければ、政策が停滞して市場が混乱する恐れも抱える。 日銀内には来年夏の参院選が近づけば、政治サイドから景気を冷やす利上げに抵抗する声がさらに強まるとの警戒感も広がる。金融正常化に向けて「利上げを急ぎたいのが日銀の本音」(地銀関係者)で、日銀幹部も「独立した中央銀行なのでやるべきときはやる」と言い切る。 市場の一部には政権の不安定化で「利上げのハードルは上がる」との見方もある。一方、円安が再び加速すれば物価高騰への懸念から逆に利上げ圧力が強まる可能性もあり、為替で翻弄(ほんろう)される展開も予想される。 明治安田総合研究所の小玉祐一フェローチーフエコノミストは「金融政策に大きな圧力をかけてくる政党はない。日銀のかじ取りが尊重されるだろう」と指摘する。 (黒石規之)
西日本新聞