瀬戸内そだち、ふっくらプリプリのムール貝を知っているか?
瀬戸内そだち、ふっくらプリプリのムール貝を知っているか?
シェフの多くがモンサンミッシェル産ムール貝を贔屓にしている。けれど、国内でも旨い貝が養殖されていることはあまり知られていない。年間生産量は8tと少ないが、瀬戸内海で育ったプリプリのムール貝を紹介する。
稚貝が入ったネットを海に吊るして養殖する
ムール貝はモンサンミッシェル産に限ると思っているシェフは多い。けれど、それに匹敵するぐらい旨いムール貝が大分で養殖されていると豪語する人がいる。大分県別府市のイタリアレストラン『Otto e Sette Oita』の梯 哲哉シェフである。 「うちも以前はモンサンミッシェル産を使っていました。でも、岩本水産のムール貝は実がふっくらで甘みもあり、モンサンミッシェル産に負けていません。僕らが手をかけたら、もっと美味しくなる思います」。 国産ムール貝も流通しているが、その多くは牡蠣などに付着したムール貝を剥がし、きれいに掃除したものだ。 片や、岩本義彦氏の岩本水産 (大分県豊後高田市)では、4月に生まれた天然の稚貝を豊後高田沖の内海で養殖している。 プランクトンを餌にするムール貝は、一箇所で大量に育てると養分が不足する。そのため150個の稚貝を入れたネット(約40cm四方)を300個用意し、100メートルのロープに結ぶ。 それを約5メートルの深さに宙吊りにし、1年ほど養殖する。 元々日本にはムール貝は棲息していなかった。明治の開港以来、外国航路の船に付いて持ち込まれたムール貝が昭和初期、全国に広がっていった。 「日本固有のものではないため、ムール貝を食べる文化がありませんでした。漁師はタコの餌にしてきたので、ムール貝は人が食べるものではないという意識が強い。海外で食べた経験がある人は多いと思いますが、漁師の大半がその食べ方や利用方法を知りません」(岩本社長)。 そのせいもありムール貝を養殖する業者も少なく、輸入品に押されている。食べ方を知らないのは漁師に限ったことではない。ワイン蒸しか、パエリアに添えるぐらいしかバリエーションがないと思っている人が多いはず。まずは、岩本水産社長の自宅で食べられている、生産者ならではの料理を教えてもらった。