国内4社目、宇宙ベンチャーがグロース上場。「宇宙に厳しい」市場の荒波、どう乗り越える
宇宙ベンチャーのSynspective(シンスペクティブ)が、2024年12月19日に東京証券取引所グロース市場へ上場した。 【全画像をみる】国内4社目、宇宙ベンチャーがグロース上場。「宇宙に厳しい」市場の荒波、どう乗り越える 初値は公開価格の480円を上回り、736円。終値は635円で、初日の時価総額は687億3800万円だった。 衛星などの製造を伴う宇宙ベンチャーの上場は2023年以降、国内で4社目。 2023年4月に月着陸船などを開発するispaceが上場すると、同12月には九州大学発ベンチャーでシンスペクティブと同様に「SAR衛星」と呼ばれる技術を用いてサービスを展開するQPS研究所が上場を果たした。2024年6月にも、宇宙デブリ除去技術をはじめとした軌道上でのサービスを開発するアストロスケールHDが上場している。 シンスペクティブは2023年12月期の売上高は13億8628万円。純損失は15億2045万円の赤字。これまで上場したほかの宇宙ベンチャー同様、赤字上場となった。
「衛星データの需要、高まっている」
シンスペクティブは、20018年2月に、創業者の新井元行代表と、内閣府が所管する革新的研究開発推進プログラム「ImPACT」でマネージャーとして小型SAR衛星の開発・社会実装を進めていた慶應義塾大学の白坂成功教授(現シンスペクティブ顧問)が設立した宇宙ベンチャーだ。2024年6月には、シリーズCラウンドで70億円の資金調達を発表。第三者割当増資による累計調達金額は、280億円を超えていた。また、上場と同日には、三菱電機と戦略的パートナーシップを結び、出資を受けたことが公表された。日経新聞によると、出資額は60億円にのぼるという。 同社が開発するSAR衛星は、「Synthetic Aperture Radar衛星」の略称で、日本語だと「合成開口レーダー」という。宇宙からマイクロ波を使って地表を観測することで、雲などに邪魔されることなく地形の起伏や河川の水位変化などを観測できる。災害発生時などに活用できる技術として注目されている。 シンスペクティブでは、互いに協調する小型化したSAR衛星を複数打ち上げることで一つのシステムとして稼働する「衛星コンステレーション」と呼ばれる手法を用いて、世界中を高頻度で撮影。そのデータ解析などを通じたサービスを展開している。 設立以降、これまでに実証衛星を含めて合計5機の小型衛星の打ち上げに成功してきた。 現在は、このうち2機の運用が終了している。2025年末までには追加で3機の打ち上げを計画しており、そのうちの1機は2024年12月20日深夜にニュージーランドから打ち上げられる予定だ(12月19日段階)。さらに、2028年までには合計30機以上を目指す。 シンスペクティブによると、衛星が増えていけばいくほど特定地域の観測頻度が高まる。最終的には、災害発生直後など1時間以内に必要なデータ・解析結果を提供することを目指す。 シンスペクティブの新井元行代表は、 「2~3年で10機以上の数にできれば、収益面でも黒字化にもっていけると目標を設定しています」(新井代表) と自信を見せる。 新井代表は、このタイミングでの上場について理由は大きく2つあったと語る。 「2018年9月に創業してから、技術的な実証と営業活動の事業基盤作りをずっと続けてきました。そこに目処が立ってきたことが(上場を決めた理由の)一つです。いよいよ衛星の数を増やして、ビジネスを拡張していくタイミングになった。 また、2024年は日本も災害が多かった。地政学リスク、気候変動による環境リスクも非常に大きくなっています。需要面が非常に高まっている。ここで新たに資金調達をして事業拡張するのは、ベストなタイミングでした」(新井代表) 今後は、まずは足元に広がる日本の安全保障や災害対応の需要へ対応するために、コンステレーションシステムを拡張していく。4~5年先に衛星数が30機以上になれば、災害対応といった公的案件以外の民間セクターの需要を掘り起こす余力も出てくるという。 中期的には民間と連携し、新しいマーケットを作っていきながら、海外展開も進めていく考えだ。
三ツ村 崇志