F1マシン、かくあるべし。空力の鬼才エイドリアン・ニューウェイが語る理想と現実|インタビュー
古き良き時代の思い出
F1では常に、脳裏に刻み込まれるような象徴的な瞬間が記憶に残り、退屈だったレースは記憶から消し去られる。これまでも、そして今後も、過去の思い出が付きまとうということも考慮する必要があるのだ。 「我々は記憶に残るレースやバトルを覚えていて、それをバラ色のメガネを通して見てしまう癖がある。そして少し退屈なレースは忘れてしまう」 ニューウェイはそう語る。 「実際には、どのシーズンも含めて、長年に渡って退屈なレースは沢山あった。そしておそらく最も劇的なシーズンは、最初の6レースで6人の異なるウィナーがいた2012年だろう」 「F1の素晴らしさは、人間とマシンが共存していることだと思う。マシンにはシャシーとエンジンがある。つまり、競争力のあるパッケージには事実上、3つの重要な要素があるのだ」 「その3つ全てにおいて必ずしもグリッド上でベストである必要はないが、おそらくふたつがベストで、3つ目が良ければ、それなりのポジションにつけるだろう」 「レギュレーションで過剰に規制してしまうことによる危険性はそこにある。仮にマシンが過剰に規制されて、事実上のワンメイク・フォーミュラレースになってしまったら……レースシリーズがワンメイクになると、必ず人気が落ちるというのが歴史の定説だ」 「その最良かつ最悪の例は、90年代半ばのインディカーだ。当時は4~5社のシャシーメーカー、3~4社のエンジンメーカーが存在し、その人気はF1に匹敵するほどだった」 「その後まもなく、シャシーはワンメイク、エンジンは2メーカーのシリーズになった。実際のところ、人気は低迷している」
タイヤの役割
F1の成功においては、ただマシンを上手く走らせれば良いというわけではない。ニューウェイは、タイヤの影響も同様に重要だと考えている。 現代F1のピレリ製ワンメイクタイヤは、ある程度の性能劣化(デグラデーション)が発生するように設計され、ドライバーはタイヤをマネジメントしながらレースを戦っている。毎ラップ最大限に攻めた走りができないことに不満を漏らすチームやドライバーもいるが、ニューウェイは今のバランスが非常に良いと考えている。 「タイヤのデグラデーションは少し悪いイメージを持たれがちだと思う」とニューウェイは言う。 「しかし個人的には良いことだと思う。異なる戦略が生まれるからね。昨年のテキサス(アメリカGP)で我々がやったように、追いかける立場では攻めた選択肢を採ることができる」 「テキサスのレースでタイヤのデグラデーションが大きくなければ、我々がマックス(フェルスタッペン)を勝たせるチャンスはなかっただろう。おそらく、あのレースはその年最もエキサイティングだったレースのひとつだろう」 「タイヤのデグラデーションというのは実際、我々が手にしたこととほぼ同じだと思う。つまり(レース中に)同じことを繰り返すことなく、様々な戦略を立てることができるし、レース中の様々な瞬間に、様々なマシンが異なるパフォーマンスを発揮する」 「その結果バラエティに富み、予測不可能なレースが展開される。一般的に、タイヤのデグラデーションがあまり問題にならず、グリッドが1ストップ戦略で終わるようなレースは少し退屈になりがちだ」