F1マシン、かくあるべし。空力の鬼才エイドリアン・ニューウェイが語る理想と現実|インタビュー
F1史上最も成功したレーシングカーデザイナーであり、現在はレッドブルでチーフ・テクニカルオフィサーを務めるエイドリアン・ニューウェイ。“空力の鬼才”というふたつ名で呼ばれる彼は、グランプリレースの偉大な時代、そしてそうではない時代を生きてきた。 【動画】RBのF1日本GPに”お父さんカメラ”が迫る! 角田裕毅がポイント獲得。リカルドは日本語を学ぶ? ニューウェイはF1キャリアを通じて、様々なアイデアが盛り込まれた名機を世に送り出してきた。その中にはTVゲーム『グランツーリスモ』のために制作された究極のマシン、レッドブルX2010も含まれている。 X2010は最高出力1400馬力を発生させるファンカーで、シミュレータ上では鈴鹿サーキットのコースレコードを20秒も塗り替えた。ただX2010だらけのF1グリッドではファンが望むようなレースでのスペクタクルを届けることはできないだろう。完璧なF1マシンを用意すること、単に究極なマシンを開発することは必ずしも同義ではないのだ。 むしろF1というスポーツを成功させる、ないし盛り上げるためには、相反する多くの条件を乗り越え、真にエキサイティングなグランプリを生み出すという目標をクリアする必要がある。 2026年に導入が予定されている次世代テクニカルレギュレーションの策定が進む今、現行のグラウンドエフェクト規定でF1が期待されていたモノをすべて実現できたのか、そしてF1マシンがどうあるべきかについて、ニューウェイの考えを聞くのに絶好のタイミングと言えよう。 Autosport/motorsport.comの独占インタビューに応じたニューウェイは、F1が進むべき方向性について、魅力的かつ現実的な洞察を示した。「あの頃は良かった……」と思っていても、我々を取り巻く世界の変化には、頭脳が感情を抑え込まなければいけない側面が多々あるのだ。 「全ての難問が詰まっている」とニューウェイは言う。 「多くの人はスペクタクルという観点から、高回転型のV10、自然吸気エンジンが良いと言うだろう。我々は皆、2000年代のV10やV8に憧れを抱いている」 「しかし、もちろん燃費は良くない。スペクタクルと社会的責任のバランスを取る必要がある。スポーツ全体の環境汚染という点で、マシンの燃料消費が占める割合が実際は小さいとしてもね」 「(環境汚染の)最大の原因は、レースに訪れる人々だ。サッカーや他の国際的なスポーツと変わらないが、これはイメージであり、それ(エンジンを槍玉に上げること)が一般大衆が容易に理解しやすい解釈だ。そのため、最初の難題は動力源となる。効率の良さを追求することになるのだろうか? そうなると比較的静かになるのが普通だ。実際、ノイズは非効率だからね」 「シャシーの面では、私的には軽くて小さいことが重要だ。マシンはとても大きくなったが、軽くて小さいことが基本だ」 「そして、高速域におけるパフォーマンスという観点から、マシンがどれだけ速くあるべきかを議論し始めることになる。しかし忘れてはならないのは、テレビを通すとマシンは遅く走っているように見えるということだ」 「ほどほどのパフォーマンスのマシンを見ていても、あまりエキサイティングではない。マシンがテレビで速く見えるようになるには、適切なスピードが必要なのだ」 F1における今後の課題について語るニューウェイの話は、このスポーツの核心にある、相容れない対立にまで進んだ。 レギュレーション策定を行なうFIAやスポーツを取り仕切るF1がスリルを提供する仕組みを求める一方で、F1チームの目指す仕事は圧倒的なパフォーマンスを発揮するマシンを作り上げ、完璧なワンツーフィニッシュを飾ることだ。エンターテインメント性の高い勝利を演出したとてボーナスポイントはない。 この両者の関係は互いに相反するモノであり、完全には解決できないとニューウェイは言う。 「人為的なモノにしない限りはね。できるかどうかはわからないけど、WWE(プロレス)のようになったら……」とニューウェイは語った。 「現在あるレギュレーションは、間違いなくこれまでで最も厳しいモノだ。新しいレギュレーションでは、それぞれ以前のモノよりも規制が厳しくなる傾向にあり、最小規模のチームに対して、最大規模のチームの支出を抑えるために予算制限が導入された」 「ただ予算制限下でも競争順位は大きく変わっていない」 チームとシリーズ側が競合する目標をそれぞれに追い求めることが、必ずしも失敗に終わるということではない。両者が共有する役割の中には、素晴らしいレースを生み出す要素もあるからだ。