古代ローマの身だしなみは実にワイルドだった、「悲鳴が聞こえてくる」脱毛や肌かきも
「悲鳴が聞こえてくる」脱毛
帝政時代のローマで、少なくとも裕福なエリートの間で流行っていた身だしなみの1つに脱毛がある。男性も女性も、自宅や公衆浴場で、毛抜きを使ってムダ毛を抜いていた。あるいはお付きの者や奴隷に処理させていた。 だが、容姿にかように気をつかうローマの人々を、誰もが手放しで受け入れていたわけではない。 1世紀のローマの哲学者セネカは、浴場を見下ろす場所に住むのはうるさくてかなわない、という手紙を書いている。「声がうるさいだけじゃない。想像してみてくれ。痩せこけたワキ毛抜き屋が客を呼び込もうと甲高い声でずっと叫び続けているんだ。その声がやむのは毛抜き作業をしているときだけ。そうすると今度は客の悲鳴が聞こえてくる」 ワキ毛を抜く習慣が実際にどれほど広まっていたかはセネカの手紙からはわからない、と英ケンブリッジ大学チャーチル・カレッジの古典研究部長のジェリー・トーナー氏は言う。というのも、この身づくろいの習慣は、哲学者セネカが当時のローマ人に抱いていた大きな懸念の一部にすぎないと思われるからだ。 「セネカは厳格なモラリストでした。当時の公衆浴場で見られた軟弱さや贅沢、享楽の様子を非難しているのは明らかです」とトーナー氏は説明する。「ですから、毛が抜かれる人々の悲鳴については、少し大げさに表現したのでしょう。とはいえ、脱毛がごく普通に行われていたのは確かです」
肌の汚れや汗はかき落とす
ストリギリス（肌かき器）というのは、ローマ人がギリシャから取り入れた、体をきれいにする道具（主に青銅製）だ。 男性も女性も、公衆浴場でまず体に油を塗り、ストリギリスで肌の汚れや汗をかき落としていた。公衆浴場の中庭で運動をして汗をかいてから、ストリギリスで体をきれいにしていた者もいたかもしれない。 ストリギリスと油の容器が一緒になった「洗面用具セット」が考古学者によって発見されているし、ローマの街やローマ帝国の東の国境が広がるブルガリアでも、墓に埋められていたストリギリスが見つかっている。ブルガリアの3世紀の墓からは、人の頭のような独特の形の容器が見つかっている。ストリギリスでかき落とす油をこれで持ち運んだのかもしれない。 ストリギリスがなぜ墓に入れられていたかは定かではないが、アスリートが運動後にストリギリスで肌をかいていたことから、ストリギリスと運動の間に関連性があったことは学者も把握している。ローマで発見された4体の遺体と2本のストリギリスが埋葬された紀元前4世紀の墓を、考古学者が「アスリートの墓」と呼んでいるのはそのためだ。
