「ホモ・ヒストリクスは年を数える」(番外編・上)~新元号「令和」決定~ 元号と古典の関係
ホモ・ヒストリクスだった万葉の日本人
『万葉集』は年月日に敏感である。 「年を数える」という本連載のテーマにとって重要なのは、実は、『万葉集』のこの梅花歌三十二首并序の冒頭だと私は考えている。 「天平二年正月十三日 萃于帥老之宅 申宴会也 于時初春令月 気淑風和梅披鏡前之粉 蘭薫珮後之香」 年月日に敏感な日本人は、今から1300年近く前の時点で、自分がこの和歌を詠んでいるのは天平2年正月13日であるという意識をすでに獲得していた。 元号(年号)紀年法は、積年紀年法であり、連続数字を並べた通年紀年法とは、発想自体が異なる。にもかかわらず、自分が今いる絶対年代といえる年月日を意識し、かつ、記録しつつ生きているという意味で、日本人はすでに「ホモ・ヒストリクス(歴史的存在としての人間)」だったといえるだろう。 著者紹介:佐藤正幸(さとう・まさゆき)1946年甲府市生。1970年慶應義塾大学経済学部卒。同大学大学院及びケンブリッジ大学大学院で哲学と歴史を専攻。山梨大学教育学部教授などを経て、現在、山梨大学名誉教授。2005~2010年には、President of the International Commission for the History and Theory of Historiography(国際歴史学史及歴史理論学会(ICHTH)会長)を務めた。主著に『歴史認識の時空』(知泉書館、2004)、『世界史における時間』(世界史リブレット、山川出版社、2009)、共編著:The Oxford History of Historical Writing :Volume 3:1400-1800 , (Oxford University Press, 2012)など。