「世界一のおもてなし」がモンスター客を生んだ…「カスハラ大国」を脱するために日本企業がやるべきこと
顧客による迷惑行為「カスタマーハラスメント」がたびたび話題に上っている。桜美林大学の西山守准教授は「日本ほど顧客が強い国はほかにない。企業は『担当外の業務は応じる必要はない』と従業員にはっきりと伝えるべきだ」という――。 【この記事の画像を見る】 ■「世界一のサービス」とカスハラは表裏一体 東京都は、顧客が企業の従業員に理不尽な要求や悪質なクレームを突きつける「カスタマーハラスメント(カスハラ)」の防止条例を制定する方針を決めた。今年秋の条例案の提出を目指すとされている。 全国初の取り組みとして期待を集めている反面、以下の点に実効性について疑問の声も見られている。 ---------- 1.カスハラか否かの線引きが難しい 2.条例が施行されても、企業側の対応が変わらない限り、状況は改善しない 3.法が整備されても、クレーマーの行動は改まらない ---------- 実際、東京都の条例は罰則を設けないとされており、抑止力は限定的なものになるだろう。その点では、3の主張は妥当性がある。 3を解決することは難しいが、法整備と平行して企業側が対策を講じることで、1、2を解決することは十分に可能であると考える。 筆者はコロナ前に頻繁に海外に行っていたが、サービスに関する考え方が日本と全く異なっていることに驚かされてきた。 筆者が日本人だからというのもあるが、日本の接客サービスは世界一であると実感している。しかし、それは日本の接客サービス従事者が過剰な対応を余儀なくされてきたことと表裏一体だ。
■海外の「顧客サービス」の発想は180度異なる 海外に行くと、顧客として不遇とも言える扱いを受けることが少なくない。 最近、ABEMAの旅番組で、実業家のひろゆき氏が南米のペルーで予約していたはずのホテルで部屋が確保されておらず、ホテルと予約サイトに対して長時間クレームを付けるというシーンがあった。こうしたことは、筆者自身も何度も体験してきた。 ヨーロッパ旅行中、博物館に1人で行った際に、入場券が2枚発券されたので「1人だから1枚分キャンセルしてくれ」と言ったところ、「自分は2枚と聞いたからキャンセルはできない」と言われ、頑として拒否された。 長距離バスでは乗車口や時間が頻繁に変更になったが、バス会社やバスターミナルのスタッフに聞いても「自分は知らないから、わかるやつに聞いてくれ」と言われて途方に暮れたことが何度もある。 安ホテルに宿泊しようとした際には、受付のスタッフはヘッドホンで音楽を聴いていて声をかけるまで気づかず、筆者が「チェックインしたい」と言っても、「5分待ってくれ」と返され、スタッフは筆者を待たせている間、別の事務作業(?)をやっていた。 国と人によっては、顧客と対等どころか「サービスを提供してやっている俺のほうが偉い」と言わんばかりの態度を取るスタッフもいた。 たまたま対応してくれる人が親切であれば、愛想良く、筆者側の要望にも柔軟に対応してくれるのだが、あくまでそれは「運が良ければ」の話だ。 ヨーロッパを1カ月ほど旅していた時に、何度か顧客がトラブルになるのを目にした。しかしそれは、顧客がスタッフにクレームを付けているというよりは、双方がお互いの主張をぶつけ合っているという風だった。日本人が見ると、喧嘩をしているように誤解しかねない勢いだった。 ■日本ほど顧客が強い国はない アジア諸国は比較的顧客を立てる傾向はあるが、それでも筆者が知る限りでは、日本ほど顧客側が強い国はない。 日本において、「お客様のほうが偉い」「客の言うことは聞くべきだ」という発想が定着してきたのはなぜなのだろう? ---------- 1.人材の均質性 2.長期雇用を前提とした教育・育成システム 3.業務範囲が曖昧な雇用慣行 4.企業側の“炎上”リスク ---------- 1~3は日本の労働市場の特性に基づくものだ。 これまでの日本は、労働者の民族や文化が均質で、教育レベルが平均的に高いため、一定水準のサービスを維持することが比較的容易だった。加えて、人材の流動性が低く、長期雇用を前提とする環境下で、長期的な職業教育、人材育成が可能となっていた。これによって、一定レベル以上のサービスを安定的に供給することが可能になっていた。