革命防衛隊の「大失態」...ハマス指導者の暗殺という赤っ恥で、イランは本気で「中東大戦」に突き進む?
<首都テヘランの真ん中で「客人」ハマス最高指導者が暗殺された衝撃。露呈した革命防衛隊のもろさを克服し、ハメネイはどの方法で反撃するのか>
私が就任してからの3年間で最大の成果は「モサド(イスラエルの諜報機関)の潜入スパイ網を解体」したことだ──イランのエスマイル・ハティブ情報相がそう豪語したのは7月下旬のこと。 【動画】ゲームにあらず、降り注ぐロケット弾を正確に捉えるイスラエルの迎撃ミサイル だが6日後の7月31日未明、イランの首都テヘラン市内にある革命防衛隊のゲストハウスで、パレスチナのイスラム組織ハマスの政治部門を率いるイスマイル・ハニヤが暗殺された。当然、首都に潜入していたモサド工作員の犯行と考えていい。 ここで注意したいのは、イランの指導部が政府の情報省よりも革命防衛隊の諜報・防諜能力に信頼を置いているという事実だ。実際、革命防衛隊の組織構造において治安・情報部門は最強・最大であり、宗教国家イランを守る治安機関の頂点に立つ存在とされている。 繰り返すが、革命防衛隊の守るテヘラン市内の施設で外国の要人が暗殺されるなどという事態は、あってはならないことだ。それは革命防衛隊の諜報能力に重大な脆弱性があることの証しであり、組織の最上層部にまで外国のスパイが入り込んでいた可能性も排除できない。 今回の事件で最悪なのはハニヤの死ではない。問題はそれを防げなかったことだ。最も信頼していた革命防衛隊の諜報部門にさえ外国のスパイがいたとすれば、いったい誰を信じればいいのか。しかも今は、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師(85)が後継者選びを進めている時期。宗教国家である同国の体制を揺るがせかねない微妙な時期だ。 もちろん、諜報部門の失態は今回が初めてではない。今年4月には革命防衛隊の対外工作部門「コッズ部隊」司令官でレバノンの親イランのシーア派武装組織ヒズボラの作戦を調整していたモハンマド・レザ・ザヘディが、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館の関連施設で殺害された。2020年11月には、革命防衛隊所属の科学者で「核兵器開発計画の父」とされるモフセン・ファクリザデも暗殺されている。 しかし今回の暗殺現場は外国ではなく、首都テヘラン市内にある革命防衛隊の施設だった。普段はカタールにいるハニヤは、イランの新大統領マスード・ペゼシュキアンの宣誓式に出席するために訪れていた。 ■「イランなら安全」ではない 日頃から用心深いテロ組織の指導者たちもたいていは、イランなら安心と考えている。例えば2008年にシリアで暗殺されたヒズボラ幹部イマド・ムグニアの娘の回顧録によると、父親はイランの領土内にいれば安全と信じていたという。国際テロ組織アルカイダの幹部サイフ・アル・アデルも、今はイランに住んでいる。伝えられるところでは、アイルランドを拠点とする国際犯罪組織キナハンなど、ヨーロッパ系の暴力団体の幹部らもイランに身を寄せているらしい。 イランの革命防衛隊は、テロリストに居場所を提供することを通じて彼らと親密になり、自らの共闘部隊として利用してきた。イランに滞在する面々は優雅な暮らしを満喫しつつ、戦闘員の訓練やテロ計画の策定に従事している。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によれば、昨年10月7日にイスラエルとガザの境界線を突破したハマス戦闘員の一部は、イラン国内で革命防衛隊から訓練を受けていた。 だがイスラエルの工作員は厳戒態勢だったはずのテヘランで、革命防衛隊の守る施設内でハニヤを殺害できた。こうなると「イランなら安全」という認識は覆される。イランとその代理勢力との関係も、今までどおりとはいかないだろう。 シリアでザヘディが殺害されたのも、20年にイラクで革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官が暗殺されたのも、現地に潜む外国のスパイのせいだと言い訳できた。しかし今回のハニヤ暗殺は革命防衛隊のお膝元で起きた。 革命防衛隊がメンツを失うことを恐れているのは、ハニヤの滞在先に爆発物が持ち込まれたという西側の報道を即座に否定したことからもうかがえる。非難をそらすために当局は近くから飛翔体が発射されたと述べたが、その一方でゲストハウスの関係者20人以上を逮捕し、警備手順の見直しに着手してもいる。