伝説のバンド「Thee Michelle Gun Elephant」に東大生だった私が思い知らされた「生きる価値」 肩書を取られたら何も残らないちっぽけさを痛感
外出先からアパートに戻ると、電話に20件を超えるメッセージが残されていた。すべて借金取りからの督促。怒号の主は「闇金」と呼ばれる人たちだったが、終わりから2件目にだけ母の声が残されていた。 「助けて、英策、殺される……」 私は、腰を抜かしそうになりながら手元にあった生活費をかき集め、各駅停車に飛び乗って実家のある久留米市をめざした。 わが家に帰ると、雨戸がすべて降ろされており、玄関は固く閉ざされていた。人の気配もない。不安でいっぱいになった私は、入り口の引き戸を思いきり叩いて叫んだ。
「英策よ、帰ってきたよ、開けて」 中からあらわれたのは叔母だった。彼女は無言で私を部屋へと導いた。電気も、ガスも、水道も止められていた。室内はむせ返るような暑さだった。 暗闇の中に母はおり、下着姿でポツンと正座していた。あの誇り高き母が・・・自分が気づかないうちに、後もどりできない状況に追いつめられてしまったことを感じた。 母から、連帯保証人になっていた叔母とふたり、いよいよ借金で首が回らなくなった、と聞かされた私は、おそらく大学にはいられなくなるのだろう、と思いながら家を出た。
■空気を切り裂くように響いたギターの音 あてもなく歩いた私がたどり着いたのは、近所のバッティングセンターだった。 ポケットを探る。わずかな小銭がある。私はお金を機械に入れた。まともに打ち返す気力などない。とんでもない無駄使いをしている、そんな罪悪感がおそってきた。 すると、突然、空気を切り裂くようにギターの音が響きはじめた。 ミッシェルの「世界の終わり」だった。 私はアベさんのギターが大好きだった。でも、俺は音楽で飯を食うわけじゃない。ミュージシャンはしょせんミュージシャンだ。<東大生のわたし>はそんな冷めた目で彼を見ていた。
だが、アベさんのマシンガンカッティングは、私のプライドを粉々にくだいた。東大生という「肩書」をはぎ取られてしまえば何も残らない、そんな自分のちっぽけさを思い知らされた気がした。 借金取りと会いたくなかった私は、涙で顔をくしゃくしゃにしながら、遠回りして家に戻った。戦争でパートナーを亡くし、3人の子を残された祖母が、どの木で首を吊って死のうか考えた、という話を思いだしながら、家の近所をフラフラとさまよっていた。