映画『ルックバック』の原作よりも印象に残る青春の終わり 表現者が抱える“孤独”を実感
孤独になった人間にしか見えないもの、出会えない人、たどり着けない場所がある
藤野と京本の関係は決して対等ではない。ペンネームの藤野キョウこそ共同名義だが、物語を考えるのは藤野で、京本は背景を描くアシスタント。同時に京本は藤野の漫画の熱狂的なファンでもある。引きこもりだった京本にとって、藤野は自分を外に連れ出してくれた恩人だが、精神的に依存していることに対して葛藤があったのだろう。「一人の力で生きてみたい。もっと絵が上手くなりたい」と京本が言って美大に行くことを藤野に告げる場面はアニメの方が「青春の終わり」を感じ、切なくなった。 アニメ映画を観ることで『ルックバック』の新たな魅力に気づくことが多かったが、何より強く実感したのが「表現は人を孤独にする」ということだ。 絵が上手くなりたいと強く願い、一人で机に向かうほど、友達は離れていく。漫画を描くという行為は地味な作業の繰り返しで、ドラマチックな世界とは真逆だと、藤野が画を描く姿を背中越しに捉えたシーンを観ていると実感する。しかしなぜか、黙々と画を描く藤野の背中を観ていると、涙が溢れそうになる。 表現に目覚めると人は孤独になる。だが、孤独になった人間にしか見えないもの、出会えない人、たどり着けない場所があるのだと、彼女の背中を見て思った。
成馬零一