ダウニーJrやエマ・ストーンは「レイシスト」なのか? アカデミー賞「アジア人差別騒動」“先入観”に目を曇らされずに考える
アカデミー賞授賞式の晴れ舞台で何が起こったか?
まず、受賞式での経緯を具体的に振り返ってみよう。通常はプレゼンターの数は1~3名。しかし今年の演技部門では、前年の受賞者に過去の受賞経験者4名が加わり、5人のプレゼンターが壇上で横に広がるように立ち、各部門に5人いる候補者をひとりずつ紹介するという趣向が採用されていた。 クァンが受賞者の名前を読み上げると、ダウニーJr.は真っ先にステージの一番下手に立っていたティム・ロビンスに近づき、その途中でクァンに視線を向けることなく片手でオスカー像を受け取った。ロビンスと握手したダウニーJr.は、クァンの方に向き直って何かをアピールしたようにも見えたが、横からグータッチを求めてきたサム・ロックウェルに応対したため、上手側にいたクァン、クリストフ・ヴァルツ、マハーシャラ・アリの3人をほぼ無視した状態でスピーチに入ってしまったのである。 主演女優賞のエマ・ストーンのケースはさらにややこしい。ミシェル・ヨーに名前を読み上げられたストーンは、ドレスのジッパーが壊れてしまったとゼスチャーを交えてアピールしながら、いささか狼狽えた様子でステージに上がり、ヨーからオスカー像を受け取るはずが2人で像をつかんだまま下手側の隣にいたジェニファー・ローレンスに近づき、ローレンスも近寄ってオスカー像をつかんだことで、ローレンスがオスカー像を渡したようにも見える形になったのだ。 この状況を、「ストーンがヨーをローレンスの方に引きずり、ローレンスもオスカー像を手渡す役割をヨーから奪った」として、両名を非難する論調が生まれた。また、立ち位置を離れて動き出したローレンスを右隣にいたサリー・フィールドが引き戻そうとしたため、SNS上では「フィールドが出しゃばったローレンスを止めようとした」と称賛する声も聞かれた。 上記の経緯はすべて、授賞式のテレビ中継の映像が「そのように見えた」という話である。この記事も、なるべく客観的に描写しているつもりだが、筆者の主観が混じっていることはお断りしておく。批判を浴びる結果となったダウニーJr.、ストーン、ローレンスは、現時点でこの件について公式に発言しておらず、当人たちがどういう認識でいたのかはわからない。 しかし一夜明けて、ミシェル・ヨーがインスタグラムに改めてストーンへの祝いの言葉を投稿。「混乱させてしまったけれど、オスカー像を渡す栄誉をあなたの親友のジェニファーと共有したかったの」と綴ったため、壇上で起きたゴタゴタはヨーの気遣いの結果だったことになり、ストーンへの非難はほぼ沈静化した。