「2児の母」「3児の父」という単語にモヤモヤ…プロフィールに“子どもの数”は必要か
〈論点がズレる人とはどう会話をすればいい? 中野信子が回答する“対処の5パターン”〉 から続く 【写真】この記事の写真を見る(2枚) みなさまのお悩みに、脳科学者の中野信子さんがお答えする連載「あなたのお悩み、脳が解決できるかも?」。今回は、「プロフィールになぜ子どもの数を明記するのか」という難題に、中野さんが脳科学の観点から回答します。(全3回の2回目。 #1 、 #3 を読む) ◆ ◆ ◆
Q 出演者のプロフィールに子どもの数が記されている意味が分かりません─61歳・新米専業主婦からの相談
――40年間勤務した会社を定年退職し、初めて専業主婦をやっています。毎日ワイドショーを興味深く観ているのですが、出演者について「2児の母」「3児の父」などとテロップで紹介されることが気になっています。プロフィールとして著書や受賞歴が紹介されるのは分かりますが、なぜ子どもの数を記すのか意味が分からないし、子どもの数が多ければ多いほど立派だと言わんばかりではないか……と思ってしまうのは、子どもがいない私のひがみというものでしょうか。 子どもの数が多ければ立派という考えが透けて見えるような但し書きに、モヤモヤとした気分を抱えてしまう気持ちはよく分かります。大学院生の頃に、素晴らしい業績を上げている女性研究者の先輩の話をしたところ、男性教官からひと言だけ、「ふうん。それで彼女は子どもは産んだの?」と返されて大変びっくりした思い出があります。いわゆる最高学府の教官がですよ! そりゃあ日本における女性の教授の割合が低いのも頷けるというものですよね。 ワイドショーではそういう表現をしないように十分に配慮している真面目なスタッフもたくさんいるのですが、それでもメディアが率先してそのお先棒を担いでいるように見える現状にも割り切れないものを感じないでもありません。
「2児の母」という単語ひとつの裏側にも、想像を絶する葛藤があったかも
とはいえ、私はまったく子どもを産む気持ちになったことがなく、子どもを育てるのも本当に大変なことです。誰かがやってくれるのならちょっとくらい税金等を多めに払ってでもどなたかお志のある方に育てていただきたいと思ってしまうタイプです……。自分が努力して自分が何かを達成することのほうが、人間をひとり育て上げるよりむしろ楽なのではないか、と思ってしまうこともあるくらいです。 もちろん、考え方は人それぞれですし、私の個人的な感想をあたかも基準のようなものとして提案するつもりはないのですが、「2児の母」「3児の父」という単語ひとつの裏側にも、もしかしたら母たち、父たちの想像を絶する葛藤があったかもしれません。 江戸時代、大奥では、二つのキャリアプランがあったといいます。一つは説明するまでもないことでしょうけれども、将軍のお手付きとなり、将軍の子を産んで「お部屋様」となるコース。 もう一つは、上流階級の礼儀作法をわきまえ、豊富な人脈を築き、故郷と中央政府を結ぶ人材兼地域における私塾の教師のような存在として生涯尊敬される女性として生きるというコースです。どちらもそれぞれに存在意義があり、その価値を比べられるようなものでもないと思います。 現代にも、このような複数のキャリアプランを肯定的に自然に認知できる環境が整っていればいいのにという感想をしばしば覚えないでもありません。いまだに私たちは社会進化の途中にあるのだなと改めて感じさせられます。 text:Atsuko Komine 中野さんにあなたのお悩みを相談しませんか? 読者の皆様のお悩みを、 woman@bunshun.co.jp か(件名を「中野信子人生相談」にしてください)、〒102-8008 千代田区紀尾井町3-23「週刊文春WOMAN」編集部「中野信子の人生相談」係までお寄せください。匿名でもかまいませんが、「年齢・性別・職業」をお書き添えください。 棋士・加藤一二三(84)の悩み 「結婚64年の妻から、日常生活の優柔不断を不思議がられます」 へ続く
中野 信子/週刊文春WOMAN 2024春号