「どんな症状でも診る」離島・中山間地を支える総合診療医、患者との距離の近さが「面白い」 医師不足に悩む島根・奈良の現場を訪ねた
東京都出身の北村医師は、地域医療を深く知るため西ノ島に来た。「同僚の医師や看護師らと知恵を出し合い、工夫をこらす環境は大いに勉強になる。患者との距離が近く、治療の効果がはっきり分かることに、医師として面白みを感じる」と語る。 ▽病院と診療所が相互にカバー「医師が代わっても続けられる仕組みが大事」 西ノ島から船で20分ほどの知夫里島。人口600人ほどの小さな島だ。知夫村診療所の加藤輝士所長(33)は週3回程度、隠岐島前病院で診察する。その間の診療所は、病院から来た別の医師が勤務する。診療所と病院で相互にカバーする体制をとっている。 隠岐島前病院の黒谷一志院長(44)は「島内の医療を一人で負うのは精神的にも大変。病院と診療所を行き来することで、それぞれの現場で学べる。人が代わっても続けられる仕組みにすることが大事だ」と説明する。住民にとっても、相性の良い医師を選べる利点がある。 加藤医師は隠岐島前病院の打ち合わせにもオンラインで毎日参加する。病院と診療所で小まめに情報共有しているため、診療所の患者が病院に入院した場合のケアもスムーズだ。
▽住民は65歳以上が40%、医師も高齢で引退 奈良県宇陀市は山あいに集落が点在する中山間地域が大半を占める。三重にも大阪にも出られるアクセスの良さはあるものの、大学進学や就職で若い世代が市外へ転出し、人口減が止まらない。4町村が合併する前の2005年の3万7千人が2020年には2万8千人になった。65歳以上の高齢者は人口の40%を超える。市内の金融機関が営業日を減らすなど、人口減の影響は日常生活にも及んでいる。 約6千人が暮らす大宇陀地域には3人の開業医がいたが、北部地区では高齢で体調を崩すなどして2018年に1人が引退。山あいの南部地区の医院も跡継ぎが見つからず閉業した。 ▽何でも相談できる「動く診療所」が地域を巡回 住民の身近で診察する医療機関が相次いでなくなり、宇陀市は医師会などと対応を協議することになった。そこで出てきたアイデアが移動診療車を使った「動く診療所」だった。 移動診療車は大型バス並みの広さがあり、宇陀市立病院と同じ電子カルテが使える。災害時も活動でき、心電図やエックス線検査機器も完備する。簡易な血液検査も可能だ。医院がなくなった大宇陀地域の2地区へ週に計3回出向く。新型コロナウイルスのワクチン接種や、市による住民向け健康診断でも活躍した。集会所など地域の施設が待合室代わりとなる。