スペイン国王晩餐会出席のため一時帰国する乾は「忖度」の犠牲者か?
スペイン1部のエイバルで活躍中のMF乾貴士(28)が、日本政府の要請を受けてシーズンの佳境に一時帰国することが大きな物議をかもした。 スペイン国王フェリペ6世、レティシア王妃夫妻が4日に来日することに伴うもので、安倍晋三首相が主催する6日の晩餐会に出席。7日に再びスペインへと戻るスケジュールのなかで現地時間6日のラス・パルマス戦を欠場し、同9日のセルタ・デ・ビーゴ戦も時差や長距離移動の影響で出場が難しくなるからだ。 エイバル側の発表によれば、マドリードにある在スペイン日本大使館を介して日本政府から招待状が届いたという。安倍首相がスペイン国王夫妻をもてなす華やかな席で、両国の架け橋になれる、スペインにゆかりのある日本人を晩餐会に招きたいと外務省は判断したのだろう。 そして、招待された数十人のなかの一人として、スペイン1部でプレーする現時点でただ一人の日本人である乾にも白羽の矢が立てられた。しかし、海外でプレーする日本人選手を、所属クラブの公式戦を欠場させてまで遠い日本まで呼び寄せる必要が果たしてあったのだろうか。 エイバルで2シーズン目を迎えた乾は、昨年8月の開幕直後はリザーブもしくはベンチ外が多かった。しかし、10月22日のエスパニョール戦で先発すると、巡ってきたチャンスで一発回答を弾き出したのだろう。中盤の左サイドで居場所を確立し、先発回数は20、プレー時間も1582分を数えている。 先発出場を続ける過程で迎えた1月22日のバルセロナ戦では、スペイン1部での出場試合数が「40」に到達。かつてマジョルカでプレーしたFW大久保嘉人(現FC東京)を抜いて日本人1位に躍り出て、いまでは記録を「48」にまで伸ばしている。 もっとも、現場を預かるスペイン人のホセ・ルイス・メンディリバル監督から信頼を寄せられていても、絶 対的なものにまでは至っていない。いまも熾烈な競争が繰り広げられているなかで、乾の不在の間に代役の選手が活躍すれば、シーズン序盤の状況に逆戻りしても何ら不思議ではない。 実際、乾の離脱が正式に決まったことを受けて、エイバルを率いて2シーズン目になる56歳の指揮官はこんなコメントを残している。 「私としては選手一人を失うことになる。他の選手がこのチャンスを利用して上手くやれば、タカ(乾)がチーム内であらためて定位置をつかむのに苦労するかもしれない」 招待者を人選した外務省官僚がスポーツに少しでも造詣が深ければ、こうした状況に陥りかねないことは容易に理解できたはずだ。安倍首相以下の官邸サイドのことしか考慮していない姿勢の表れであり、流行りの言葉を使えば、晩餐会の見栄えを華やかにしたい主催者の意向を「忖度」したことになる。 招待状を受け取ったエイバル側が断ることも、もちろん可能だった。しかし、初めてスペイン1部へ昇格して3シーズン目になるバスク地方の小クラブは、所属選手が国王との橋渡し役を務めることを極めて名誉だと受け止めた。