楽観主義も度を越せば有害になる 3つの兆候
3. 記憶にバイアスをかけ、教訓を忘れる
■3. 記憶にバイアスをかけ、教訓を忘れる 楽観性バイアスは、過去の経験の記憶のしかたにも現れる。不快な記憶や否定的な記憶をなかったことにして、楽しかった時にばかり目を向けていないだろうか? こうした選択的想起は、短期的にはちょっとばかり幸せな気分にさせてくれるかもしれないが、経験から貴重な教訓を学ぶ機会を妨げてしまう。 人間関係や仕事、個人的な成果など、計画通りにいかなかったことを振り返ってみよう。そうした困難の体験をきちんと処理しておかないと、同じ過ちを繰り返す可能性が高い。しかし、人の心は肯定的な経験だけを選択的に思い出すので、しばしば全体像が歪められ、感情の成長が妨げられがちだ。 良い記憶にしがみつきたくなる気持ちは理解できるが、困難な記憶と向き合うことも同じくらい重要だ。楽しい経験だけでなく、つらい経験をも認めて初めて、成長できるのだ。 楽観性バイアスは、強力な心理的ツールとして、やる気と回復力を維持するのに役立つ。しかし放置すると、現実を歪んだ見方でとらえ、非現実的な期待を生み、過去の失敗から学べない状態に発展しかねない。ポジティブなことばかりに目を向けていると、感情の発達が妨げられ、浅はかな対処法や非現実的な人生観につながるおそれがある。 真の心の健康は、バランスを保つことから生まれる。つまり、こうあってほしいという願望を現実と混同するのではなく、人生をありのままに見るということだ。だから、次に無理をしてでも楽観的になる誘惑にかられたら、自分の経験すべてを受け入れることを考えよう。 人間は弱いものだ。そうした弱さを、表面的にのみポジティブな信念で包み隠すのではなく、バランスのとれたポジティブな姿勢で取り組もうとすることは恥ではない。十分な根拠に根差した現実的な楽観主義は、盲目的な楽観主義よりもはるかに強力なのだ。
Mark Travers