大河ドラマ「光る君へ」のシーンに蜻蛉日記・枕草子… 古典の名作、SNSでファン歓声
この表現は、あの作品のあのエピソードでは…! 源氏物語の作者・紫式部を主人公とした大河ドラマ「光る君へ」。最近の放送回では、「源氏物語」のほかにも「枕草子」や「蜻蛉日記」を思い起こさせるシーンがあり、多くの平安文学ファンがSNSで歓声を上げました。編集者のたらればさんと、その魅力を語り合います。(withnews編集部・水野梓) 【画像】「光る君へ」たらればさんの長文つぶやき 1年「情緒がもつのか…」
枕草子のエピソード「御嶽詣」も登場
水野:清少納言(ファーストサマーウイカさん)が仕えることになる定子さま(高畑充希さん)が登場し、幼い一条天皇(柊木陽太さん)との仲のよさも描かれるなど、ますます今後の展開が楽しみになってきましたね。 たらればさん:「物語」としてギアが上がってきた感じがします。「ここから政治劇としてさらに激しくなりますから、情緒の揺れにご注意ください」というテロップが出ているのが見えるようです。 水野:最近の放送回には、清少納言のエッセイ「枕草子」のエピソードも盛り込まれていました。 たらればさん:はい、佐々木蔵之介さん演じる藤原宣孝の、派手な格好での御嶽詣(みたけもうで)ですね。 「御嶽詣は派手な格好でいかねば、神さまに見つけてもらえぬ。おおぜいの見物客がおった」といったセリフがありましたが、この時のエピソードを清少納言が書いています。 水野:厚焼き卵みたいな真っ黄色の衣装を着て、後の紫式部・まひろ(吉高由里子さん)の前でくるっと回ってみせて、その様子を語っていた第13回のシーンですね。 たらればさん:清少納言は「枕草子」に、「宣孝という人が、すげえ派手な格好で御嶽詣に行ったそう。あの目立ち方が政治的な戦略だとしたらたいしたもんだわ」というような話を記しています(笑)。 水野:清少納言っぽい(笑)。 <右衛門佐宣孝といひたる人は、「あぢきなき事なり。ただ清き衣を着て詣でむに、なでふ事かあらむ。必ずよも『あやしうて詣でよ』と、御嶽さらにのたまはじ」とて、三月つごもりに、紫のいと濃き指貫、白き襖、山吹のいみじうおどろおどろしきなど着て、隆光が主殿助なるには青色の襖、紅の衣、摺りもどろかしたる水干といふ袴を着せて、うちつづき詣でたりける 『枕草子』一一六段「あはれなるもの」(角川ソフィア文庫『新訂 枕草子』)より当該部分を引用> たらればさん:私の訳では、 <(当時、「御嶽詣はおとなしい格好で」という風潮があったが)藤原宣孝という人は、「つまらないことだ。ここぞという時に着る服で詣でてなんの不都合があろうか。 別に必ずしも「おとなしい格好で来てね」と御嶽さまが言ったわけでもなかろうに」と言って、三月末に、とても濃い紫の指貫、白い狩襖、えらいこと派手な山吹色の着物を着て、息子の隆光には青色の狩襖、紅の衣、乱れ模様を擦り出した水干袴を着せて、二人で続いて参詣したそうです> といった内容です。 「枕草子」ではこのあと、「周囲の人は、見慣れない奇妙な出来事に、あんな格好の人は見たことがないと、驚きあきれて噂をしていたそうだ」と続きます。 水野:「光る君へ」に派手な格好の宣孝が現れて、古典を知っている人にはたまらないシーンですね…! たらればさん:「紫式部日記」では、清少納言のことを厳しく批判しているくだりがありますが、それはこの「枕草子」の宣孝への記述が酷かったので「仕返しなのでは」という説もあります。 けれど、改めて読むと、ここは宣孝のことを批判しているわけではないと感じます。むしろ「よくやるもんだなぁ」と褒めているニュアンス。清少納言先輩は誰かを批判する時はもっときっちりはっきり罵倒しますので、仕返し説はやや無理があるなと。