“缶詰め生活”の軍艦乗り、病気や虫歯はどうしてる? 独海軍の激レア艦が「海に浮かぶ病院」になるとき
7か月間帰れない補給艦
ドイツ海軍のフリゲート「バーデン=ヴュルテンベルク」と補給艦「フランクフルト・アム・マイン」が2024年8月、東京国際クルーズターミナル(東京都江東区)に艦隊を組んで寄港しました。ドイツ海軍が「今年最も重要な海洋防衛外交の取り組み」と目しているインド太平洋方面派遣「IPD24」の一環で来航した艦隊です。 【洋上の病院】これがドイツ海軍補給艦の救命救急センターです(写真) IPD24の7か月間の任務中、ニューヨークやハワイ、東京などでたまに寄港することはあっても、基本的にはずっと航行を続けている両艦。 ドイツ海軍では、すべての兵士に、航行に出る前に健康診断、歯科診断と予防接種を受ける義務があるそうですが、それでも、7か月間もの洋上生活では病気や虫歯になる船員もいると思われます。また、任務中にけがをする兵士もいます。戦時下になれば、生死に関わる状態の兵士も出てくることも想定されます。船内の医療システムは、どうなっているのでしょうか。フランクフルト・アム・マインの准士官・マティアスさんに聞きました。 全長174.0m、全幅24.0m、満載排水量2万200トンという巨大さが話題となったドイツ海軍最大級の軍艦、フランクフルト・アム・マインですが、軍事物資や食料・飲料、燃料などを補給する以外にも、実は「人命救助」という重要な任務がありました。というのも、フランクフルト・アム・マインは「海に浮かぶ病院」と呼ばれているのです。
国境を越えて人命救助
フランクフルト・アム・マインは、建造時に搭載されていた救命救急センターが2015年に火事で焼失してしまい、その替わりに、2022年にドイツ海軍で最高水準となる新しい救命救急センターが搭載されました。 それにより、手術室が2つ、様々な検体検査を行うラボラトリー、医療器具などを滅菌する中央材料滅菌室、歯科病棟、薬局、レントゲン室が設けられました。病床も43床と多い上、血圧低下などの緊急時に頭より脚を15cm高くする「ショック体位」に一瞬で移行できるベッドや、集中治療用ベッドなども完備されているそうです。 当然、医療スタッフも充実しています。フリゲートのバーデン=ヴュルテンベルクは船医しか同乗していませんが、補給艦のフランクフルト・アム・マインは船医のほかに外科医、麻酔医、歯科医も同乗しているのです。 フランクフルト・アム・マインで治療できない病気やけがはないと言っても過言でありません。 「海に浮かぶ病院」の称号にふさわしく、今回のIPD24の任務中、フランクフルト・アム・マインは、他国の艦隊とも連携し、国境を越えた人命救助活動にも貢献しています。 日本に寄港する前、2024年6月のことです。ハワイ沖で開催された環太平洋合同演習(リムパック)に参加するため、米国カリフォルニア州サンディエゴからハワイに向かって1400kmほど進んだところで、一緒に航行していたメキシコ艦隊の水兵が生死に関わる急病で倒れたのです(ドイツ海軍専門メディア「marine forum」による)。 24歳の兵士はまず、メキシコ海軍のフリゲート「ベニート・フアレス」から、メキシコ海軍の揚陸艦「ウスマシンタ」にヘリコプターで移されましたが、そこからさらに、充実した医療設備を備えているフランクフルト・アム・マインにヘリコプター輸送されました。ドイツ海軍の外科医や麻酔医が手術の体制を整えて患者の到着を待ち構え、急病の兵士に対して迅速かつ適切な医療措置を施したおかげで、一命を取り留めました。 このように、洋上での医療体制は非常に重要であり、特に長期間の任務中には、船員の健康を守るためのシステムが不可欠です。
赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)