“国産”のヨーロッパ野菜はなぜ作られたのか? イタリア料理店がじわじわ注目
ヨーロッパ野菜を輸入する難しさ
箱崎:北さんは埼玉県でたくさんのレストランを経営されていますが、やはり、ヨーロッパ野菜を使っているのですか? 北さん:そうですね、イタリア料理を提供するということは、イコール、ヨーロッパ野菜をたくさん使うということになります。地産地消のヨーロッパ野菜ということが、私たちのお店の共通したコンセプトです。 さいたまヨーロッパ野菜研究会が作られる前は、ヨーロッパ野菜は手に入りづらく、手に入っても、イタリアから運ばれてくるので鮮度が良くないんです。さらに、飛行機で運ばれるから運送コストがかかって高くなってしまう。 最終的に、お肉のような価格で野菜を提供することとなってしまいます。鮮度と価格の面は、本当に苦労しました。 箱崎:乾燥させたもの、冷凍野菜もありますが、やっぱり生野菜とは違いますよね。 北さん:そうですね。冷凍したもの乾燥させたものは、そもそもの野菜の風味からは、離れてしまいますね。
日本のイタリア料理に感じている違和感
北さん:春になると、「菜の花とアサリのスパゲッティ」を見かけませんか? イタリア料理から見ると、あれは、「チーマ・ディ・ラーパ」の代替野菜が「菜の花」なんです。日本で菜の花が出てくるのは、3月~4月。そこに、旬であるアサリと合わせるという組み合わせなんですが、イタリアで菜花が食べられるのは、冬なんです。 真冬にクタクタに煮込んだチーマ・ディ・ラーパを、イタリア・プーリア州の郷土料理で耳たぶ型のパスタ「オレキエッテ」にするのが定番です。真冬に温まるための料理なのですが、同じ野菜を使っていながら、季節が変わってしまうというジレンマを、なんとかできないかなと。 『あるものでいいじゃないか』と思うかもしれませんが、海外旅行先の和食店で『なんか違うな』と違和感を経験したことはありませんか? まさにそれを、イタリア料理店は感じているんです。
代替野菜では、イタリア料理を忠実に再現できない
箱崎:他にも、代替野菜と季節が違う、ということはあるんですか? 北さん:ジェノベーゼソースのパスタは「バジル」が使われていますが、日本でバジルが広まっていなかった時は、「シソ」で作られていた時期もありました。 箱崎:そういえば昔、少し紫色だったかもしれないです。 北さん:実はこれ、「バジルがシソ科だから」というだけで選ばれていたんです。こういう風に、代替野菜というのは、本物を知ると『あれ? こんなんじゃなかったよな?』って感じるものが多いですね。 箱崎:日本で食べるための工夫でしょうが、だいぶ違ったものが出来上がっていたんですね。 北さん:そうですね。野菜ではないですが、「カラスミのパスタ」のリーズナブル版が、「たらこのスパゲッティ」だと思います。 箱崎:ですが、さいたまヨーロッパ野菜研究会ができてからは、状況が変わったそうですね? 北さん:はい。さいたま市にヨーロッパ野菜の「種」を販売する会社があり、そして、その野菜を使いたいという私たちのレストランがあり、野菜を作ってくれる生産者が現れましたので、ここから本場のイタリア料理を、イタリア食文化を発信するんだ、という気概です。