京都国際高校の甲子園初V:日韓の隣人関係考える糸口に
韓国最大手の朝鮮日報は24日朝刊1面に「韓日合作の『奇跡のドラマ』だ」という見出しの記事を掲載した。さらに私は5面のすべてを使って、「韓国が建てた学校で日本選手がやってのけた『甲子園神話』」と書いた。これだけ多くのスペースを割いて報道した理由は、これからの韓国と日本がどんな隣人同士であるべきかという答えの糸口を京都国際の活躍に見たからだ。
ルーツは在日の民族学校
京都国際のルーツは、1947年に在日韓国人たちが資金を出して設立した民族学校「京都朝鮮中」だ。90年代に財政難に見舞われ、学生数が激減したため、韓国の外交通商省(現外務省)や在日大韓民国民団などと協議のうえ、日本の学校への転換を決めた。2003年に日本の学校教育法第1条が定めた学校として認可を受け、翌年から日本人生徒を受け入れて校名を京都国際中高に変えた。 現在は中学生を含む在校生159人の7割が日本人だという。スタンドにいた高2の男子生徒は「京都国際が初めて甲子園に出た2021年の試合を観て入学した。グラウンドの仲間も、ベンチの選手も、応援席の私たちも心を一つにして戦った」と話した。 この学校にはストーリーが多い。自前のグラウンドは左翼方向70メートル、右翼方向60メートルしかなく、フリーの打撃もできない。しかも男子生徒が全校で約70人しかいない学校の野球部が優勝したというのは、読者の目を引く。 一部の日本人は、NHKの野球中継で韓国語の校歌が流れたことに否定的な反応を見せたという。X(旧ツイッター)には「京都国際の高野連除名を求める」「やっぱり韓国語の校歌は不快だ」というような投稿がなされた。これに対し、京都府の西脇隆俊知事は23日の記者会見で「差別的な内容などが含まれる4件についてソーシャルメディアの管理者に削除を要請した」と明らかにした。 一部の韓国人も変わらない。京都国際の校歌には韓国語で「東海(トンヘ)のうみ」という表現があるが、NHKが日本語字幕を「東海」ではなく「東の海」としたことを批判する投稿が少なくなかった。韓国で「東海」は、日本の「日本海」を指す。 こうした条件反射のような反応の背景には、民族感情があるのかもしれない。さらに慰安婦や徴用工のような過去の問題が絡むと、双方の世論は特定の政治勢力に悪用されもした。安倍晋三首相と文在寅(ムン・ジェイン)大統領の時代には、民主主義の価値を共有し、急変する国際政治の中で同じ立場にあるだけでなく、人口減少などの似通った社会問題を抱えるにもかかわらず、両国は極端な対立関係に陥った。「ノージャパン(日本製品不買運動)」や「半導体素材の輸出制限(韓国半導体メーカーへの日本製素材輸出の一部制限)」のように、互いの国益を損なうことが自国内での政治的な支持固めに使われるようなことも起きた。 しかし、京都国際の野球部員たちにとって「校歌」は文字通り学校の歌に過ぎなかった。野球部員のほとんどは日本国籍で、ベンチ入りした選手では「1番・レフト」の金本祐伍(3年)が唯一の韓国系だった。 スポーツ専門誌「Number」のオンライン版にノンフィクションライターの中村計氏が書いた記事によると、その金本にしても校歌について「僕はいちおう歌えますけど、意味はまったくわからないです。ずっと日本に住んでるんで、韓国語はぜんぜんわからないんですよ。こういう学校なんで、(韓国に)興味あるんだろうみたいに思われるかもしれませんけど、正直、特別な意識はないです。僕は野球をやりにきているんで」と話しているという。 甲子園に京都国際の校歌が流れた時、関東第一の一塁側アルプススタンドからも拍手が沸き起こった。校歌が韓国語か、日本語かで、拍手するかどうかが変わるわけではないだろう。それは純粋に、京都国際の選手たちが野球のために流した汗に敬意を示す拍手だった。
【Profile】
成 好哲 SUNG Ho-chul 朝鮮日報東京支局長。業界紙などで8年間勤務した後、2008年に朝鮮日報入社。慶応義塾大学訪問研究員などを経て、22年5月から現職。村上春樹氏の小説を好み、心が落ち着かない時には「ノルウェイの森」を繰り返し読むことが習慣。著書に「和!日本:凝集する日本人意識構造を解剖」など。