「あまりに無謀で、迷惑」富士山にピクニック並の軽装で弾丸登山、寒さしのぎに山荘へ無断侵入、大量のゴミ…大混雑で世界遺産〝取り消し〟懸念の声も どうすれば?
山梨県側であれば、バスやタクシーで行ける5合目でも御来光を見ることができる。私も今年の開山日に取材したが、頂上は天候が荒れて危険と判断し、5合目で待機した。その結果、雲間から御来光を見ることができた。その頃、山頂は暴風雨だったという。 「通」な登山者が好むのは、あえて山頂を目指さないコースという。1合目から5合目まで登ったという人は、その魅力をこう語った。「6合目以降は岩場が続いて殺風景。5合目より下は人も全然いないし、緑の中で自然を感じながら登ることができた」 ▽遺産登録抹消の危機? 観光地に過剰な客が訪れて環境や住民生活を脅かす「オーバーツーリズム」は、富士山だけでなく、国内あちこちで問題になっている。このため、政府は9月6日に観光庁長官らが出席する関係省庁会議の初会合を開いた。今秋に対策を取りまとめる方針だ。 富士山が2013年に世界文化遺産に登録された際、審査に関わる非政府組織(NGO)の国際記念物遺跡会議(イコモス)は、環境保全のために登山者数を管理するよう求めた。
ところが、山梨県によると、登山や観光で山梨県側の5合目を訪れた人は大幅に増加している。山梨県の長崎幸太郎知事は8月、日本外国特派員協会で講演し、こう危機感を訴えた。 「最悪の場合は登録を抹消される恐れがある」 実際、開発などで環境が破壊されたと判断され、国連教育科学文化機関(ユネスコ)に遺産登録が取り消された例は英国やドイツ、オマーンである。また、存続が危ぶまれる場合は「危機遺産」に指定され、最近は観光客が殺到するイタリア・ベネチアが候補に挙がった。 ▽異常な状況、来年は規制に期待 山梨県は観光客数をコントロールするため、麓から5合目まで、車に代わる次世代型路面電車(LRT)の整備を計画している。しかし、地元自治体などは「これ以上、富士山を傷つけてはならない」と反発。実現可能性は不透明だ。山梨県は、弾丸登山を防ぐ条例の制定も目指している。 静岡県の危機感も同じだ。川勝平太知事が記者会見で「マナー違反登山への対策は喫緊の課題だ」と述べている。入山規制に加え、「富士山保全協力金」と呼ばれる入山料を、現在の千円から増額することを検討している。
自然観光資源の活用に詳しい東洋大の武正憲教授は、行政機関が連携して対応すべきだと指摘する。「今の富士山は安心安全に登れる人数を超えた異常な状況だ。今年は規制について周知されたので、来年は実際に規制することが期待される。どんな対策を取るにしろ、山梨、静岡と国が連携することが重要だ」