プーチンの秘策か、契約終了目前の欧州向けガスパイプラインでロシア産をアゼルバイジャン産として継続輸送案が浮上
(国際ジャーナリスト・木村正人) ■ ロシア、過去最大の900人をCOP29に派遣 【写真】COP29に900人もの代表団を送り込んだロシアのブース。巨大なマトリョーシカが目を引く [バクー発]ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は隣国アゼルバイジャンの首都バクーで開かれている国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)にミハイル・ミシュスチン首相を筆頭に同国としては過去最大の900人の代表団を送り込んだ。COP28の倍の規模だ。 ミシュスチン首相はCOP29の首脳演説で「低排出エネルギーへの移行は低所得国の発展を損なうことなく行われることが重要だ。地球温暖化問題は差別や不公正な競争、人為的な制限の導入の口実として利用することはできない」と力説した。 石炭や石油に比べ温室効果ガス排出が少ない天然ガスは実質排出ゼロに向けた過渡的エネルギーであることを確実にするためだ。化石燃料推進派で親露派のドナルド・トランプ次期米大統領の復活を歓迎するプーチン氏には実はウルトラC級の秘策がある。 英日曜紙サンデー・タイムズ(11月16日付)によると、COP29の議長国アゼルバイジャンは来月末にウクライナ経由のロシア産ガスのパイプラインが遮断されたあと、代わりに中欧のスロバキアにガスを販売することを申し出たという。
■ 「石油と天然ガスは神からの贈り物」 アゼルバイジャンの国営エネルギー会社ソカールが露国営ガス会社ガスプロムに取って代わる。アゼルバイジャンはカスピ海に英国・北海の13倍とされる天然ガスを埋蔵する。バクーから車で約30分、「燃える山」として知られるヤナルダグでは天然ガスが自然発火する。 文字通りの「火の国」アゼルバイジャンは予算の60%、輸出の90%を化石燃料に依存する。同国のイルハム・アリエフ大統領はCOP29の開幕演説で石油と天然ガスを「神からの贈り物」と称え、化石燃料産業を目の敵にする西側メディアと気候活動家に反駁した。 アゼルバイジャンから欧州に大量のガスを送るにはパイプラインの容量が不足している。このためロシア産ガスが「アゼルバイジャン産」として引き続き欧州に送られる。その代わり同量のアゼルバイジャン産ガスが「ロシア産」としてスワップされる取引が持ち上がっている。 ガスプロムの昨年12月期決算は前期1.2兆ルーブル(1兆8600億円)の黒字から6290億ルーブル(9730億円)の赤字に転落した。最終赤字を計上したのは1999年12月期以来24年ぶり。赤字額は過去最大だ。ウクライナ戦争の制裁で欧州がガスの脱ロシア化を進めたためだ。