日本のファッション誌ではおなじみのあのページがフランスには存在しないワケとは?
ファストファッションを着こなす同僚の小悪魔風おしゃれパリジェンヌ
コーポレートPRとして採用された私は、オープンスペースの一角にデスクを割り当てられました。周りの同僚も思い思いの恰好をしています。優しく声をかけてくれる人などいません。デスクにとりあえず座ってみるも、私は間違ったところに来てしまったような違和感を感じていました。なんだかひどく場違いなのです。一人だけ浮いているのです。 一刻も早く溶け込みたい……。そういう切なる思いから、私はまず周りのパリジェンヌ達の服装を観察することにしました。隣席の同僚はブリジット・バルドー似の小悪魔風の若い女性ですが、群を抜いて垢抜けています。ところがよく見てみると、ZARAやH&Mのような、安月給でも買うことができる洋服をうまく着回しているのです。 早速私も近所のZARAに走り、同じような服を買いだめしました。広報部長に言われていた「ありのままの自分で勝負しなさい」という大切な教えはどこへやら。人真似をして周りに同調するという悪い癖がムクムクと頭をもたげ、私の視野を狭くしていました。
人と同じものを着たら「私らしさ」がなくなってしまう!
小悪魔ギャルの同僚ソフィアは、事務連絡以外は口もきいてくれません。私は何かにつけ、上司のアシスタントをしている年上のヤスミナを頼ることになりました。物腰も話し方も穏やかなヤスミナは私の心のオアシスでした。 モロッコ系のフランス人である彼女はフサフサとした黒髪とエキゾチックな目が特徴的です。ちょっと真似できないような個性的な服を選び、斬新な組み合わせをしています。それがまたお似合いなのです。 ある日、ヤスミナがファッション雑誌をペラペラとめくり、自社製品が掲載されているページに付箋をつけていた時のことです。隣に座り込み、息抜きに別の雑誌をめくっていた私はふと気づくことがありました。 「こっちの雑誌って、コーディネート指南とかないのね」 「何それ?」 そう言って首を傾げるヤスミナに説明するため、私は広告チームのオフィスに走りました。世界中の雑誌が置いてある部屋です。日本の女性誌を拝借してめくると、ありました、ありました。我々がよく目にする、洋服やアクセサリーをどのように着回すか、親切丁寧に説明する「1週間のコーディネート」ページです。 それを見せると、ヤスミナは目を丸くして言いました。 「なんだか教科書みたいね!」 こんなモノ参考になるのか。日本人女性は本当にその通りの恰好をするのか。みんな同じような服装になってしまわないのか。立て続けに聞かれた私が答えに詰まっていると、ヤスミナはさらに言いました。 「私だったら、人が着ているモノは絶対に着たくないわ。私じゃなくなっちゃうもの」 そう断言して仕事に戻ってしまいました。