【山手線駅名ストーリー】 徳川慶喜は鉄道建設の騒音に耐えかねて逃げ出した!? 今もにぎわう "おばあちゃんの原宿" といえば巣鴨!
鉄道工事の騒音に悩まされた徳川慶喜
巣鴨の慈眼(じげん)寺には、芥川龍之介と谷崎潤一郎の墓がある。このほかにも歴史上の偉人が眠る寺院などが多い。
〈本妙寺〉
遠山金四郎(江戸時代の町奉行/時代劇『遠山の金さん』のモデル)、千葉周作(江戸後期の剣術家/北辰一刀流始祖)
〈染井霊園〉
岡倉天心(美術研究家)、二葉亭四迷(小説家)、高村光雲・光太郎・智恵子(光雲と光太郎は彫刻家・詩人の父子、智恵子は光太郎の妻で詩集『智恵子抄』のモデル)
〈勝林寺〉
田沼意次(江戸中期の大名・老中) この中で田沼について触れよう。2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の主要登場人物のひとりで、演じるのは渡辺謙さん。旬の人物として注目を浴びそうだ。
田沼は9代将軍・家重と10代・家治の時代、側用人でありながら老中まで上り詰めて幕政を主導した最高権力者だ。重商主義によって幕府財政を建て直し、景気の浮揚もはかって「田沼時代」と呼ばれるほどの権勢を誇った。 一方で、「賄賂(わいろ)政治家」と批判を浴び、反対勢力によって息子を暗殺され、最後は領地没収されて蟄居(ちっきょ)となり、失意のうちにこの世を去った。賄賂政治家の悪評は当時の政敵が立てたもので、実際には金権まみれというほどでもなかったとの見解も出てきており、再評価されつつある。来年は墓参り客が押し寄せるかもしれない。
さらに、最後の将軍である15代・慶喜の屋敷跡もある。慶喜は明治維新が成立すると駿府(静岡県)で謹慎の日々を送ったのち、現在の巣鴨1丁目に屋敷を建て移り住んだ。その場所には、今も「徳川慶喜巣鴨屋敷跡」の碑が立っている。 1901(明治34)年、慶喜は巣鴨から小石川に転居した。その理由が面白い。なんと巣鴨駅と鉄道路線の工事が始まったため、騒音に悩まされたからだという。開発によって周辺が活気を呈していくのと入れ替わりに、江戸時代最後の将軍が巣鴨を離れたわけだ。 鉄道を中心とした新たな町づくりによって、旧勢力がさらに追いやられていく出来事だったように思えてならない。