なぜ世界中でメディアが危機に瀕しているのか─日本も無関係ではない実情
現地記者から感じた「伝える覚悟」
──本書には報道の自由を守るため、危険をいとわずに権力に抵抗する各国の記者が多数登場します。北川さんは現地で取材をしていて、こうした記者たちにどのような印象を持たれましたか? フィリピンで「ラップラー」(2021年にノーベル平和賞を受賞したジャーナリストのマリア・レッサ氏がCEOを務める独立系ニュースサイト)や、「ABS-CBN」(民放最大手でドゥテルテ前大統領の強硬な薬物犯罪捜査を批判的に報じ、事業停止命令を受けた)の記者たちと話していて感じたのは、「民主主義国家の記者」としての矜持です。 もちろん権力側にすり寄る人もいますが、多くのフィリピン人は86年の「ピープルパワー革命」によって故マルコス独裁政権を倒し、民主主義を自分たちの力で手に入れたことを誇りに思っています。記者たちのマインドセットにも、そうした歴史が影響しているのでしょう。 軍事クーデター後のミャンマーでは、国軍による圧政を暴こうとするジャーナリストや独立系メディアを取材しましたが、彼らからは危険を賭しても「伝える覚悟」を感じました。なかには先の軍事政権時代から取材活動を続けている人たちもいて、彼・彼女らは国内外に豊富なネットワークを持っていました。だからこそ、記者を不法に拘束・弾圧する軍政下でも伝え続けることができているのだろうと思います。 一方、平和な日本では、「メディアは民主主義の根幹」「危険を冒してでも権力と対峙して伝える」という意識を、記者が実感として持ちにくいという違いはあると思います。(続く) 記者がコストをかけて取材したニュースを無料で拡散するデジタルプラットフォームや、急速に進化する生成AIなど、メディアを巡る課題は後を絶たず、こうしたさまざまな要因が報道機関の存在を揺るがしている。後半ではメディアの弱体化が、私たちの日常や日本の国力にどのような影響を与えるかを考える。
Chihiro Masuho