なぜ世界中でメディアが危機に瀕しているのか─日本も無関係ではない実情
特派員が共有した「危機感」
──『報道弾圧』は、東京新聞・中日新聞で連載された「メディアと世界」(2019~22年)をもとに書籍化したそうですが、連載の立ち上がりや出版の経緯を教えてください。 この連載を始めた理由は、ひと言でいえば「危機感」です。 当時は、米国のトランプ前大統領や、フィリピンのドゥテルテ前大統領などポピュリスト政治家の影響力が増していた時期でした。 彼らは、報道機関を通さずにSNSなどで直接、煽情的なメッセージを発しますが、そのなかには自分たちを批判するメディアを攻撃するような内容が含まれていました。こうした状況が各国で見られるようになり、「民主主義の土台である報道の自由が脅かされている」という感覚が特派員の間に広がっていきました。 デジタルプラットフォームがニュースを届けるインフラとなり、記者が手間をかけて取材して得た情報が無料で拡散されるようになったこともきっかけのひとつです。これにより、世界中で多くのメディアが経営不振に陥りました。米国では地方紙が次々と廃業に追い込まれ、メディアによる権力の監視機能が弱まるという問題が起こっています。 習近平体制の中国やプーチン体制のロシア、中東などで、権威主義が拡大していることも懸念材料でした。こうした国々では、記者が拘束され、暴力を受けるといった事例が相次いでいます。2018年にはサウジアラビアの著名な反政府記者ジャマル・カショギがトルコで殺害されています(犯行には、サウジのムハンマド皇太子が関与していると見られている)。 このように世界中でメディアや記者を統制しようとする動きが強まるなか、「報道の力」を改めて見つめ直そうと、連載企画を立ち上げました。この主旨に筑摩書房の編集者の方が関心を示してくださり、書籍として出版するに至りました。書籍化に際しては、2021年に軍事クーデターが起きたミャンマーの状況や、日本のメディアが直面する課題などを新たに取材して加筆・修正しています。