日本にはまだないブリヤート料理の店をウランバートルで訪ねてわかったこと
以前、筆者は都内に数あるモンゴル料理店をいくつも訪ね歩いたが、同じモンゴル人が営む店でも、そこには2つの異なる世界があり、中国内蒙古出身のオーナーの店とモンゴルのウランバートル出身の店では、提供される料理や雰囲気が違うことは、本コラムでも次のように紹介した。 「ひと口に『モンゴル料理』と言うにはあまりに多様な世界を、日本にいながら体験できる時代をわれわれは生きている。来月、筆者はモンゴルに行くので、唯一東京では味わえなかった、もうひとつのディアスポラの民のグルメであるロシア在住のモンゴル系住民がつくるブリヤートの料理がウランバートルにあるそうなので、味わってみようと考えている」 ブリヤート人というのは、広くモンゴル人というアイデンティティを共有する人たちの中で、ロシア(旧ソ連)領に居住する(orしていた)人たちを意味する包括的な概念である。 現在、彼らはロシアとモンゴル、中国に分かれて住んでおり、彼ら自身もディアスポラ(民族離散)の民なのである。ちなみに中世モンゴルの歴史書である「元朝秘史」で「森の民」と呼ばれた人々の一部がブリヤート人だと推定されており、その後、モンゴル帝国を築いた「草原の民」とは区別されている。 では、ブリヤート人というのは、いったいどのような人たちなのだろうか。 ■羊肉ではなく牛肉を使う料理 7月に訪ねたウランバートルで、現地の食事情に詳しい2人の日本人に案内されたのが、ブリヤート料理店「アンガラレストラン(Ангара ресторан)」だった。 そのうちの1人は、以前書いたコラムで、今日のモンゴル現代料理に旧ソビエト連邦圏の経済協力機構であるコメコンの影響があることを教えてくれた「モンゴルホライズン」代表の山本千夏さん 。もう1人は、駐モンゴル国日本大使館の公邸料理人を務め、『まんぷくモンゴル! 公邸料理人、大草原で肉を食う』(産業編集センター刊)の著書である鈴木裕子さんである。 「アンガラレストラン」が選ばれたのは、オーナーであるブリヤート人女性のチェレンハンドさんが、2人と旧知の仲だったからだ。