「このまま時間が止まれば」天皇陛下が綴った“青春”の日々と、佳子さまが語った両陛下への思い
大きく変動した立場
《町そのものは今後も変わらないが、変わるのは自分の立場であろう》と書いたとおり、陛下の置かれた立場は、留学後の40年近くの間に大きく変動した。 今回、天皇陛下と雅子さまは、それぞれの留学先であるオックスフォード大学マートン校とベリオール校を訪問したが、大勢の大学関係者、警備担当者や宮内庁、報道陣、それに一般市民らに、常に二人は取り囲まれていた。「自由な一学生としてこの町を見て回る」ことは、とても不可能な状況だった。 私は、帰国途上の航空機の中で陛下は何を思ったのであろうかと、考え続けた。日本に戻れば、陛下は内親王の佳子さまよりも制約された窮屈な毎日を過ごさなければならない。一人の人間として、自由に、そして、気ままにイギリスの街を歩き回ったあのころに、陛下は二度と戻ることはできないのだ。その寂しさを実感して、機内で思わず涙したのだろうか。陛下の心の奥底から出たのであろう、あの素直な《いっそこのまま時間が止まってくれたら》という文章を、私は心の中で何度も、何度も繰り返していた。 佳子さまは'19年春、ICUの卒業に際し、記者会から、新しく天皇、皇后両陛下となる皇太子ご夫妻へのお気持ちなどについて尋ねられ、 《少しでもお二方のお役に立つことができれば誠に嬉しく思います》 などと文書で回答したが、彼女の目に英国訪問中の両陛下はどのように映ったのだろうか。 <文/江森敬治> えもり・けいじ 1956年生まれ。1980年、毎日新聞社に入社。社会部宮内庁担当記者、編集委員などを経て退社後、現在はジャーナリスト。著書に『秋篠宮』(小学館)、『美智子さまの気品』(主婦と生活社)など