西海岸の地下倉庫で創業したアマゾンは、いかに全米物流ネットワークを築いたか?
■サプライチェーンを短くする物流ネットワーク 顧客までの配送スピードを最適化するため、消費地に近いところに物流拠点を設けていくアマゾンの取り組みは、事業の立ち上げ時から進められていたことではありません。 米国アマゾンの場合、西海岸、シアトルの倉庫からスタートし、次に東海岸、そして大消費地へ、さらには消費者のより近くへと、段階的に物流拠点を設け、その機能を変化させてきました。 当初、アマゾンの物流センター(フルフィルメントセンター:FC)は、本社のある西海岸のシアトル(ワシントン州)に1か所あるだけでした。西海岸から東海岸まで約5000㎞、飛行機での移動だけで5時間もかかる米国では、1か所のFCで全米を対象にしたECを展開するには、どうしてもサプライチェーンが長くなってしまい、商品の仕入れにも、配送にも不便です。 そこで必要とされたのが、全米を対象にした物流ネットワークです。大胆にも元ウォルマートで物流を担当していたジム・ライト氏を招へいし、物流ネットワーク構想を立ち上げ、アマゾンは物流拠点を全米に増やしていきました。 物流ネットワーク構想実現の第一歩は、東海岸のデラウェア州へのFC設置でした。大消費地ニューヨークにも近いところに物流拠点を設けたことでサプライチェーンを短くでき、在庫も拡充、広大なアメリカ大陸を東側と西側からはさむかたちで、宅配便を利用して全米に配送するという方法をとりました。 次に、大手宅配便事業者UPSが航空便のハブとして利用している空港周辺にもFCを多く設置していきました。夜間便を使って大都市に荷物を送る拠点となるハブ空港までの距離を短くすることで、全米ユーザーに大量の荷物を早く届けることが可能になります。そこでUPSのハブ空港があるルイビル周辺に多くの物流センターを設置していきました。 次に、大消費地に近く、消費税率の低い州に多くFCを設置していきます。コストのかかる航空便の利用をできるだけ減らし、コストの低いトラック輸送を使って低コストでの配送を実現するためです。 そしてその次に打った手が、アマゾンユーザーが多く住むエリアへのFC展開、消費立地型FCへの戦略転換です。2012年には、消費税が高いことから設置を避けていたカリフォルニア州にもFCを作りました。消費税よりも、顧客への配送スピードを優先したのです。 その後、アマゾンでは、さらに消費者の近くへ、近くへ、ということで、ソーティングセンター(FCから出荷された梱包済みの商品を行き先別に仕分けるセンター)やデリバリーステーション(DS:ラストワンマイルを担うデポ)を設けていくわけですが、配送のスピードや利便性を高めていくという狙いがありました。
角井 亮一