「ワイドショー 現場取材主義の終焉」リポーターを辞めた大村正樹が語る
「独自取材ができない」いまのワイドショー
―独自取材はワイドショーでは難しくなりましたか。 大村さん: ワイドショーはいま、なかなか「独自(スクープ)」が出せない。これはルールではないんですけれども、局の報道部が把握してないことをワイドショーが出すな、という雰囲気を全体的に感じます。1998年12月、東京都杉並区に住む自殺志願者に青酸カリが送られ、それを服用した24歳の女性が死亡した「ドクター・キリコ事件」。自殺ほう助した男性は北海道在住で、のちに彼も青酸カリで自殺。その取材で北海道に行きました。外は猛吹雪。すると1台の車が通りかかって、その方が「この寒いなか、なにやってんだ?」と。吹雪のなか1時間、むこうも寒いけど、こっちは外にいるから、凍傷になるかと思うくらいでした。マイクを向けると、「彼の家へ遊びに行ったことがあって、青酸カリが500グラムあった。それは誰にも言っていない話だ」と。それは大スクープです。だから12月27日の年末最後の放送で、その情報を流しました。しかし報道部や地元局から、「東京のワイドショーがあんなのを放送したけど、事実は違う」と反発。ところが1カ月後、彼の母親が庭に埋めた青酸カリ500グラムを出してきて、事実だと発覚しました。 しかしいまは、報道部や、警視庁記者クラブ、あるいはローカルの県警が把握していないことは、ワイドショーはすんなりと放送できない時代になりました。危機管理の部署は、独自報道についてはより精度の高い取材を求めていますし、ウラが取れない場合は結果的に、報道に準じた放送をすることになる。元気のよかったワイドショーを知る立場からすると、こんなんで独自打つなよ、と思いがちですが、業界全体が絶対に間違えない報道、あとで苦情が来ないように、ということを一義的に考えているので、そうなるのも仕方ありません。背景には、テレビメディアへの信頼性を損なわせないために、情報番組での独自取材に対するハードルが高くなっていることがあります。BPOの存在や、SNSにより間違いの指摘や視聴者からの批判の声が可視化されているのも一因。以前に比べると格段にこのプレッシャーはありますし、現場にとってはしんどいことです。