<サッカー五輪>ヒーロー原川を奮起させた代表落ちの過去
リオ五輪への出場権がかかった男子サッカー・アジア最終予選、準決勝のイラク戦。1-1で迎えた後半のアディショナルタイム、時間帯とスコアを考えれば、ボランチとしては無理をせず、バランスを崩さないことだけを考えてもいい場面。しかし、原川力は相手が及び腰になっていることを、日本の勢いが上回っていることを感じ取っていた。 「相手がズルズルと下がって間延びしていたし、日本がセカンドボールを拾えている印象があったので、もうひとつ前のポジションを取っても良いんじゃないかと。そうしたら、うまくボールがこぼれてきたんです」 延長戦突入を告げる笛がいつ吹かれてもおかしくない後半49分、右サイドから南野拓実がクロスを上げると、相手ゴールキーパーがパンチでクリアしたボールが、ポジションをひとつ前に上げた原川の元に飛んでくる。 「右からプレッシャーを掛けに来ていたのは見えていたので、まずは左前にボールを置いて、そこからは何も考えていないですけど、とにかく枠に収めようと思って打ちました」 左足から弾かれた矢のようなシュートがイラクゴール右隅に突き刺さる――。日本を6大会連続オリンピック出場へと導く、リオの次が自国開催の東京のため7大会連続出場を確定させるゴールは、こうして生まれた。 「今までで一番気持ち良いというか、何かがかかった試合で点を取る経験はあまりないので、また違った世界というか、また違うことができるようになるかなと思います」 もっとも、日本サッカー史に名を残したといっても過言ではないヒーローは、試合後のミックスゾーンで、まるで成し遂げたことの大きさを分かっていないかのように淡々と、ポーカーフェイスをほとんど崩さずに振り返った。 「意外と冷静というか、あまり実感は沸いてないですし、ふわふわしているというか。勝った瞬間もとりあえず嬉しかったですけど、五輪がどうとかいうよりは、目の前の試合に勝ててうれしいというか。もっと日が経ったら湧いてくるだろうと思いますし、牲川以外出た中でチームとして掴んだ出場権なので、みんなで勝ち取った勝利というのは非常にデカいですし、チームとして成長できたかなと思います」 思い返せば、このチームで最初のゴールを決めたのも原川だった。